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2014.09.10
A-0040. 内積の奥深さ — TT
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 内積の奥深さ 発行:エスオーエル株式会社 https://www.sol-j.co.jp/ 連載「X線CTで高精度寸法測定!?」 2014年9月10日号 VOL.040 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、 無料にてメールマガジンを配信いたしております。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 最近、息子が「たしゅー」や「にーにょ」(あるいは「にーにゃ」) という単語を頻繁に発します。 「たしゅー」が「アイス食べたい」ということは解読しましたが、 「にーにょ」や「にーにゃ」が何かは分かりません。 「猫」は(普段より1オクターブ高い声で)「にゃー」なので、 猫のことではありません。 本題に入る前にもう一つ。 先日、国際学会 LMPMI 2014 に出席してきました。 どれも興味深く素晴らしい発表でした。 関係者の方々に感謝すると共に、益々の発展をお祈り致します。 お祈りするだけでなく、微力ながら貢献致したく、今後とも活動致します。 初日の朝、たまたま隣にいたドイツ風の方に声を掛けたら、 偶然にも 3D-WFP の発表をする PTB の方でした。 この方とはこれまで直接面識が無く、会場で探して挨拶しようと思っていたので、 探す手間が省けました。いろいろ話すことができ、有意義でした。 また、話をしたかった方々や意外な共通の話題がある方等々と 大いに話すことができ、充実した時間を過ごすことができました。 さて、今回は「内積」について、その奥深さを伝えたいと思います。 しかし、毎度の如く、技量不足のため、散文となりそうです。 内積とは、長さと角度の概念を抽象化したものです。 抽象化したものなので、内積について知ろうと思うと、 抽象的な記述をつらつらと読み進めて行かなくてはなりません。 でも、内積をそれなりに理解してしまうと、 抽象的=形式的で無味乾燥 という図式ではなく、 抽象化したことにより、本質を突いた具体的な対象になっていることが分かります。 抽象的=曖昧 という関係は誤解であり、「具体的」の対義語が「抽象的」なので、 「抽象的」という言葉を曖昧という意味に拡大解釈することがあるのかなと思います。 文章を書くときは、辞書で言葉の意味を確認するようにしていますが、 定義が明確な抽象化された数学的対象に比べて、言葉はとても曖昧だなと思います。 曖昧だからこそ、定義し切れない拡がりをもった対象を指し示めすことができる という利点もあるのですが。 いつも横道に逸れてしまいますが、ではなぜ内積の話をしたいのか ということをお伝えしたいと思います。 扱っている測定機が長さや角度を測る装置だからでしょうか? いえ、確かに測っているものを抽象化すると内積になるのかもしれませんが、 装置で測りたいのは、具体的な長さや角度です。 実は、測定機と切っても切れない関係にあるフーリエ変換やフィルタの背後には、 内積がいます。 最近弊社の測定機でよく活用されている ゼルニケ多項式やルジャンドル多項式も内積が重要な基礎です。 ゼルニケ多項式やルジャンドル多項式などは、「直交多項式」と呼ばれています。 直交多項式には、無数の種類があり、この他に思い付くだけでも、 エルミート多項式、ラゲール多項式、チェビシェフ多項式 などがあります。 直交という言葉にピンと来た人がいるかもしれませんが、 直交とは垂直に交わることで、角度に対して用いる言葉です。 角度を抽象化した内積においては、内積が 0 になることを直交すると言います。 話を進めるためには、更に「完備性」についてお伝えしたいところです。 フーリエ級数でいろんな関数が表現できるのは、ある意味において「完備」だからです。 完備すなわち全てが備わっているので、三角関数系でいろんな関数が表現できるのです。 そして、フーリエ級数をつくる三角関数系も直交関数系です。 完備なものとそうでないものの例を説明するともう少し理解が深まるかもしれません。 ものの長さを表すとき、実数を使います。 1辺が 1cm の正方形の対角線の長さは、√2 = 1.41421356... cm となります。 直径が 1cm の円周の長さは、π = 3.14159265... cm となります。 このように実数を使えば、ものの長さを表すのに不自由しません。 この意味で実数は完備と言えます。 では、有理数はどうでしょうか? 有理数とは、二つの整数を使って分数の形で書ける数のことです。 実数のときとは違い、 正方形の対角線の長さを表すにも円周の長さを表すにも不自由することが分かります。 いいところまで近似はできますが、決して分数では表せない数に遭遇します。 驚くべきことに、有理数は無限にびっしり詰まっている(稠密である)ことが証明できますが、 実数と比べると信じられないくらいスカスカで長さを表すのに不足していることが分かります。 そこで、有理数は完備化という方法によって、実数に格上げされます。 完備化は、有理数どうしの「距離」を定義して、 スカスカで不足している要素を次々に埋めていくという方法です。 さあ、完備化には「距離」という概念が必要であることが分かりました。 有理数の距離を定義するのは簡単で、差の絶対値を取ればOKです。 我々が普段から使う距離と同じ定義ですね。 (実は、別の距離を用いて完備化すると、実数とは別の新たな数体系が出来上がります!) では、ある形状を表現するのに使用する任意の関数を 基本的な関数や多項式に分解して表現しようとしたとき、 用意した関数系や多項式系で不自由しないかということが問題となります。 不自由するようであれば、完備化して、不足分をそろえてあげればよいのです。 完備化するには、「距離」が必要です。 関数どうしの距離や多項式どうしの距離はどう考えたらよいのでしょうか? そうです。長さの抽象化である内積を上手く定義してあげればよいのです。 具体的にどうするのかは次の機会に紹介することにして、 このように完備化して得られる直交関数系や直交多項式系が 例えば座標測定機で得られた測定データを表現するのに不自由しない道具となるのです。 -- 高野智暢 ☆TomoScope専門サイトはこちら☆