メールマガジン・新着情報一覧
- TOP
- メールマガジン・新着情報一覧
- A-0053. 3次元回転と無限小回転 — TT
2015.08.12
A-0053. 3次元回転と無限小回転 — TT
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 3次元回転と無限小回転 発行:エスオーエル株式会社 https://www.sol-j.co.jp/ 連載「X線CTで高精度寸法測定!?」 2015年8月12日号 VOL.053 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、 無料にてメールマガジンを配信いたしております。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 以前に、3次元の回転は非可換群になるというお話をしました。 前回は、3次元回転の式を書き下しましたので、 実際に非可換になる様子をみてみます。 回転前座標を (x0, y0, z0) として、 1回目の回転後に (x1, y1, z1) へ、 2回目の回転後に (x2, y2, z2) へ移るとします。 それでは、 X軸周りの角度αの回転後にY軸周りの角度βの回転をした状態と、 Y軸周りの角度βの回転後にX軸周りの角度αの回転をした状態 を比べます。 a) X軸周りの角度αの回転後にY軸周りの角度βの回転をした状態 1回目の回転と2回目の回転は、それぞれ、次のように書けます。 x1 = x0 y1 = y0 cosα - z0 sinα z1 = y0 sinα + z0 cosα x2 = x1 cosβ + z1 sinβ y2 = y1 z2 = -x1 sinβ + z1 cosβ 2回目の回転の式に1回目の回転の式を代入し、 これらの式から、(x1, y1, z1) を消去すると、 x2 = x0 cosβ + (y0 sinα + z0 cosα) sinβ y2 = y0 cosα - z0 sinα z2 = -x0 sinβ + (y0 sinα + z0 cosα) cosβ という式になります。 b) Y軸周りの角度βの回転後にX軸周りの角度αの回転をした状態 同様に、1回目の回転と2回目の回転を書いてみると、 x1 = x0 cosβ + z0 sinβ y1 = y0 z1 = -x0 sinβ + z0 cosβ x2 = x1 y2 = y1 cosα - z1 sinα z2 = y1 sinα + z1 cosα となりますので、同じく代入して、 x2 = x0 cosβ + z0 sinβ y2 = y0 cosα - (-x0 sinβ + z0 cosβ) sinα z2 = y0 sinα + (-x0 sinβ + z0 cosβ) cosα という式を得ます。 このように、a) と b) で得た式を見比べると、 一致していないことが分かります。 前にもお話したように、この非可換という性質は、とても厄介です。 さて、人間は複雑なものを扱うときには、細かい要素に分解して、 理解できるレベルに落とし込んで、 それを積み上げることで全体を理解するという手法を使うことができます。 微分と積分の考え方がまさにそれです。 人間は、比例計算や直線といった単純な要素はよく理解できますが、 ちょっと複雑になると、お手上げになってしまいます。 そこで、比例計算や直線に落とし込む、 つまり、微分方程式を立てて、複雑なものを理解します。 3次元の回転も複雑なので、 まずは、無限に小さい角度だけ回転することを考えます。 無限に小さい(無限小)といういうのは、実に高度な概念です。 「0」というインドで発見された高度な概念(今では当たり前の概念)がありますが、 無限小は 0 ではありません。 この比較的新しい無限小という概念を理解することが、 微分積分を理解するキーポイントになります。 微分積分は、既に安心して使える計算方法になっており、 公式も便利に使えますが、そうなるまでには多くの天才を必要としました。 普通は、無限小を扱い切れずに、 簡単に落とし穴(計算間違いやパラドックス)にはまってしまいます。 公式を信じる人はよいとして、 無限小を上手く扱うには、ε-δ論法を習得する必要があります。 最近は、別の視点から、超準解析の公理から出発する方法もあります。 数学には、絶対的に正しい一本の道があるわけではなく、 ある概念を理解するためのいつくもの道が存在しているというのは、 興味深いことです。 横道に逸れましたが、無限小回転の話に戻ります。 テーラー展開を理解している人にはお約束の式を使います。 つまり、 sinθ = θ cosθ = 1 です。 多くの本では、そもそも無限小の話をしているときに、 「θは十分に小さい」とか「 = は近似」とか断らずにいきなり使われる式です。 「θはラジアン」というのも一々言いません。 では、無限小回転における、 X軸周りの角度αの回転後にY軸周りの角度βの回転をした状態と、 Y軸周りの角度βの回転後にX軸周りの角度αの回転をした状態 を比べます。 a) X軸周りの角度αの無限小回転後にY軸周りの角度βの無限小回転をした状態 x2 = x0 + β(αy0 + z0) y2 = y0 - αz0 z2 = -βx0 + (αy0 + z0) b) Y軸周りの角度βの無限小回転後にX軸周りの角度αの無限小回転をした状態 x2 = x0 + βz0 y2 = y0 - α(-βx0 + z0) z2 = αy0 + (-βx0 + z0) さて、無限小×無限小、つまり、αβ という項が出てきました。 高次の項は無視するという、いつものやり方を使います。 するとどうでしょう、どちらの無限小回転も x2 = x0 + βz0 y2 = y0 - αz0 z2 = αy0 - βx0 + z0 になるではありませんか。 この意味するところは、3次元の無限小回転は、可換ということです! 非可換なものを可換に落とし込めたので、 この進歩は、絶大なものです。 非可換の計算の複雑さや絶望感を味わう前では、 この感動は伝わらないかもしれませんが、実に感動的な事実です。 -- 高野智暢 ☆TomoScope専門サイトはこちら☆