logo

logo

メールマガジン・新着情報一覧

  1. TOP
  2. メールマガジン・新着情報一覧
  3. A-0058. Legendre多項式の出発点 — TT

2016.04.13

A-0058. Legendre多項式の出発点 — TT

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 
 
Legendre多項式の出発点 
 
発行:エスオーエル株式会社 
https://www.sol-j.co.jp/ 
 
連載「X線CTで高精度寸法測定!?」 
2016年4月13日号 VOL.058 
 
平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 
X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、 
無料にてメールマガジンを配信いたしております。 
 
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 
 
 
 
思い返せば、自分が生まれてから18年後に初めて Legendre多項式 に遭遇し、 
当時熱心に計算して、その性質を調べるのを楽しんでいました。 
 
それから、さらに18年が経過していますが、 
今の仕事でも Legendre(ルジャンドル)多項式と関わりがあります。 
 
 
学生の頃は、物理学専攻でしたが、 
何人かの数学の先生のところへよく行って話をしたり、 
授業やセミナーにもぐりこんだりしていました。 
 
Legendre多項式 に関して思い出すのは、数学の先生達の休憩室へ行って、 
こんな計算をしました、あんな計算をしました と話をしていると、ある先生が 
「君は特殊関数に目覚めたようだね。僕は高校生のときにやり尽して卒業したよ。」 
と言われ、さすが数学者になる人は違うなと思ったことです。 
 
一方で、たまに物理の先生のところに話に行き、 
「群論に興味があるのですが。。。」と言おうものなら、 
「そんなのをやるのはまだ早い。」などと言われたものです。 
 
でも、よい数学は、数学からではなく、物理学から発生するという 
何か持論のようなものがあり、数学専攻ではなく、物理学専攻で通しました。 
 
結局は、物理学専攻でも現実の物理とかけ離れた理論を 
数学を駆使して研究する方向に進んでしまうことになりました。 
 
でもその方向は、進んでいくと、自分の疑問に対する答えと方向が少し違うか、 
方向が合っているのであれば、答えはかなり遠いところにあるという印象でした。 
 
今でも、「空間とは何か」「時間とは何か」「存在とは何か」という 
物理学で答えられるか分からない疑問を持ち続けている状態です。 
 
 
そういえば、この会社に入るきっかけも数学でした。 
いくつかの会社説明会で、「英語は使いますか?」「数学は使いますか?」 
という質問を毎回していました。 
 
大体は、「英語?(ごにょごにょ...)使えるといいね」とか 
「数学は直接使いませんが...」という回答が多かったように記憶しています。 
数学を使うという回答でも、非常に狭い分野をピンポイントで使う広がりのないものばかりでした。 
 
一方で、今の社長の回答は 
「英語は毎日使います。専門用語で交渉できるレベルになってほしい。」 
「数学は必須の基礎です。微分方程式の基礎を応用できるかどうかは、仕事の成果に直結します。」 
というストレートなもので、他の回答と比較して、衝撃でした。 
この2つの回答で決めたような感じです。 
(幸運にも会社側も、数学云々などと言っている自分を採用してくれました。) 
 
ちなみに、物理を使う企業であることは、会社説明会に出席する最低条件だったので、 
「物理学」「数学」「英語」で魅力を感じたことが決め手でした。 
でも、物理について言えば、「レーザー干渉計か。まあそれでもいいか。」レベルで、 
「できれば、平面度だけじゃなくて、幾何計測なら、三次元測定機とかにも関われたらなぁ」 
と思っていました。(干渉計も思った以上に奥が深いことを後から知りましたが。) 
まさか、その後すぐに三次元測定機にも関わる機会に恵まれるとは思ってもいませんでした。 
 
 
今回は、ルジャンドルという人が、 
どうして Legendre多項式 というものを考え始めたのかという出発点を書こうと思ったら、 
自分と Legendre多項式 の関わりから話が広がってしまいました。 
 
ここから先は2ヵ月前に書いた社内文章の転記なので、 
長くて読む側は大変かもしれませんが、書く側は過去の計算を写すだけなので楽です。 
 
 
さて、よい数学は、数学からではなく、物理学から発生すると書きましたが、 
Legendre多項式 も数学からだと、「母関数から各次数を生成する」という 
有難みの薄い(と個人的には感じる)方法が出発点になります。 
 
物理学から見ると、Legendre多項式 があると有難い事情があります。 
 
 
ある物理量を計算するのに、2つの空間座標をベクトル p, x としておきます。 
 
例えば、任意の電荷分布(あるいは質量分布)として ρ(x) が与えられたとき、 
その静電ポテンシャル(あるいは重力ポテンシャル)の φ(p) を求めたいという 
問題があったとします。 
 
静電ポテンシャルを微分すれば、静電場が求まるので、 
この手の計算は、色々な場面で必要になります。 
 
さて、静電ポテンシャルは、 
 
  φ(p) = 1/(4πε)∫ρ(x)/|p-x| d^3x 
 
で計算できるので、ここに現れる 1/|p-x| を何とか積分計算を実行できる多項式に 
展開したいというのが、出発点です。 
 
ここで、ベクトル p, x の大きさをそれぞれ R, r とし、2つのベクトルのなす角をθとします。 
すると、 
 
  1/|p-x| = 1/√( R^2 + r^2 -2Rr cosθ ) 
 
というところまでは計算できます。 
 
これをルジャンドルさんは、Pn() という多項式の和に展開しておいて、 
その多項式の性質は後から求めようという方法を取りました。 
そのときの展開式は、 
 
  1/√( R^2 + r^2 -2Rr cosθ ) = (1/R) Σ Pn(cosθ) (r/R)^n 
 
という形です。(Σ の範囲は、n=0 ~ ∞) 
こうした時に、Pn() の各次数を求めたいので、問題を分かり易くするために、 
R=1, cosθ=z と置き直して、 
 
  1/√( 1 - 2zr + r^2 ) = Σ Pn(z) r^n 
 
とします。(Σ の範囲は、n=0 ~ ∞) 
つまり、この左辺を r のベキ多項式で展開した時の係数を Pn(z) としており、 
この係数のことを Legendre多項式 と呼ぶのです。 
 
ここまで段取りができれば、X = 2zr - r^2 とおいて、 
左辺を X=0 の周りで Taylor展開 するだけです。 
 
  1/√( 1 - X ) = 1 + (1/2)X + (1/2!)(1/2)(3/2)X^2 + ... 
                      = Σ(1/m!)((2m)!/(m! 2^m))(1/2^m)X^m 
 
ただし、Σ の範囲は、m=0 ~ ∞ です。 
 
一方で、X^m を二項定理で展開すると、 
 
  X^m = (2zr - r^2)^m = Σ{(-1)^(m-j) m!/(j! (m-j)!)} (2z)^j r^(2m-j) 
 
です。(Σ の範囲は、j=0 ~ m) 
これを代入すると、 
 
  1/√( 1 - 2zr + r^2 ) = ΣΣ(2m!)(-1)^(m-j) /{2^m m! 2^(m-j) j! (m-j)!} z^j r^(2m-j) 
 
となります。 
ただし、1つ目のΣ の範囲が m=0 ~ ∞ で、2つ目のΣ の範囲が j=0 ~ m です。 
 
次に、n=2m-j, j=n-2k として、j と m を消去します。 
このとき、n=k+m となり、j の和を取る範囲が、0≦j≦m から、 
0≦(n-2k)≦(n-k) なので、2k≦n≦(n+k) となります。 
 
そして、kに対して n≧2k, k≧0 という条件が得られ、式の展開が、 
 
  1/√( 1 - 2zr + r^2 ) = ΣΣ(2n-2k)! (-1)^k /{2^n (n-k)! (n-2k)! k!} z^(n-2k) r^n 
 
という形にできます。 
ただし、1つ目のΣ の範囲が n=0 ~ ∞ で、2つ目のΣ の範囲が k=0 ~ n/2 を超えない整数まで です。 
 
以上より、求めたかった係数が求まり、 
 
  Pn(z) = (1/2^n) Σ (2n-2k)! (-1)^k /{(n-k)! (n-2k)! k!} z^(n-2k) 
 
と書けます。 
ただし、Σ の範囲は k=0 ~ n/2 を超えない整数まで です。 
 
 
Legendre多項式のその他の性質も、1/√( 1 - 2zr + r^2 ) の展開式であることから出発すると 
上手く導出できます。 
この 1/√( 1 - 2zr + r^2 ) が Legendre多項式 を生み出していくので、 
1/√( 1 - 2zr + r^2 ) は Legendre多項式 の母関数 と呼ばれています。 
 
 
これがそもそもの Legendre多項式 の始まりですが、 
その後よく性質を調べてみると、-1≦z≦1 の領域で直交関数系をなしていることが分かります。 
つまり、フォトマスクのような正方形領域を多項式分解するのにピッタリということになります。 
 
フーリエ級数の場合は、周期 2π の周期関数の展開になりますし、 
フーリエ変換では -∞~∞ の領域なので、(分かり易さでいえば、フーリエの方が良いように 
思えますが、)フォトマスクの場合には ルジャンドル の方が都合が良かったということでしょうか。 
フーリエなら、周波数いくつと表現できますが、ルジャンドルでは、何次の項という表現なので、 
慣れないとピンとこないかもしれません。 
 
Legendre多項式 は、結局のところ z の多項式なので、 
フーリエの三角関数に比べると扱いやすいということもあるのかもしれません。 
 
尚、Legendre多項式 が -1≦z≦1 の領域というのは、 
cosθ=z と置いたことに由来します。 
 
 
今回は、Gram-Schmidt の直交化法による Legendre多項式 の導出 に続き、 
二つ目の Legendre多項式 の導出をご紹介したことになります。 


-- 
高野智暢


☆TomoScope専門サイトはこちら☆ 

一覧に戻る

お問い合わせ Contact

048-441-1133

お問合せフォーム