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2016.07.13
A-0061. キルヒホッフの法則 — TT
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ キルヒホッフの法則 発行:エスオーエル株式会社 https://www.sol-j.co.jp/ 連載「X線CTで高精度寸法測定!?」 2016年7月13日号 VOL.061 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、 無料にてメールマガジンを配信いたしております。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 人は、経験を積んでいくと、知っているつもりになることが多くなります。 例えば、原子を実際に目で見たことはないのに、 物質は原子からできていることが常識だと多くの人が信じ込んでいます。 電子顕微鏡で見れば、それらしい画像は得られますが、 それだけで原子の存在の証明と言えるでしょうか。 教育のおかげで、自分で確かめることなく、 多くのことを知ることができるようになりましたが、 人類が原子の存在を確かだと知ったのは、 1905年のアインシュタインの理論と1908年のペランの検証によるものです。 何と、100年ちょっと前の話です。 19世紀には、ボルツマンが学会で原子について主張するも、 多くの批判に耐えきれず、自殺してしまったほどのことです。 今では、原子を信じないという人が常識がないと言われる時代です。 ギリシャの哲学者デモクリトスが紀元前400年位に 原子論を唱えたという話もありますが、実証したわけではなく、 世の中は、火、風、水、土 からできていると言った 別の哲学者の主張と大して差のないものです。 原子は、確かに現在最も有力な仮説ですが、 いくら実証を重ねても、上手く多くの現象を説明できる仮説であることに変わりなく、、 自分で実証しない多くの人にとっては、ただ信じているに過ぎないものです。 本題に入る前にもう一つ、 世の中には、簡単過ぎて理解が難しいことが多くあります。 例えば、線形代数学の証明です。 線形代数学では、行列や行列式の計算を学んだ後、少し抽象度の高い理論を学びます。 まず、線形空間というものを定義し、定義を素直に使って、証明問題を解きます。 問題: a0 = 0 を証明せよ。(aは数体Kの元、0はK線形空間のゼロ元) 細かい説明は省略しますが、回答は、 a0 = a(0+0) = a0 + a0 であるから、a0 = 0 となる。 です。 a0 = 0 が当たり前過ぎて、何を証明したらよいのか分からなくなる人が多いようです。 線形空間の定義に沿って、0とはどう定義したものか理解し、 分配律はどう定義されているか を素直に使うと、 上記の回答が証明になっていることが理解できます。 さて、本題のキルヒホッフの法則に入ろうと思いますが、 キルヒホッフの法則は、当たり前過ぎて知らない人が多いように感じます。 そして、法則として認識していないために応用できない人も多いのだと思います。 電気の知識がある人にとって、オームの法則は常識のはずですが、 キルヒホッフの法則を使えなければ、何もできないはずです。 文章にすると少し面倒ですが、 キルヒホッフ第1法則(電流則): 回路中の任意の接続点に流入する電流の和はゼロ キルヒホッフ第2法則(電圧則): 回路網中の閉回路において、起電力の和は電圧降下の和に等しい と書けます。 まず、電流則に注目してみると、簡単で、 電線が枝分かれしていたら、電流も枝分かれするが、合計は増えたり減ったりしない ということです。 電圧則も、一周したらゼロと言っているだけです。 簡単過ぎるのですが、この基礎がないと、先に進めません。 X線管の現象も、キルヒホッフの法則を知っていて、初めて理解の第一歩を進めます。 法則は、知っているだけでは役に立ちません。 使えることが重要です。 では次に、2つの抵抗がある単純な回路で合成抵抗がどんな式になるのか導いてみましょう。 まず、抵抗が1つで、電池が1つの閉回路を考えます。 オームの法則を思い出すと、 電圧 V、電流 I、抵抗 R に対して、 R = V/I です。 1) 抵抗2つの直列回路 2つの抵抗をそれぞれ R1、R2 としておきます。 キルヒホッフ第1法則を思い出すと、枝分かれがないので、 回路を流れる電流は、常に I です。 ただし、抵抗にかかる電圧は、v1 と v2 になるので、 それを式に書くと、 R1 = v1 / I R2 = v2 / I v1 + v2 = V です。 R1 と R2 の式を足すと、 R1 + R2 = (v1 / I) + (v2 / I) = (v1 + v2)/I = V/I になります。 V/I は、2つの抵抗を一つの素子とみなして、 その抵抗を R としたときの量とみてよいので、 合成抵抗 R = R1 + R2 だと分かります。 2) 抵抗2つの並列回路 2つの抵抗をそれぞれ R1、R2 としておきます。 キルヒホッフ第1法則を思い出すと、1本の線が2本に枝分かれするので、 I = I1 +I2 になります。 次にそれぞれの抵抗にかかる電圧をみると、どちらも V になります。 つまり、それぞれの抵抗に対して、 R1 = V / I1 R2 = V / I2 という式が立ちます。 今度は、分母ではなく、分子が共通なので、逆数を取って足します。 1/R1 + 1/R2 = (I1 / V) + (I2 / V) = (I1 + I2)/V = I/V = 1/(V/I) ここでも、V/I は、2つの抵抗を一つの素子とみなして、 その抵抗を R としたときの量とみてよいので、 合成抵抗 1/R = 1/R1 + 1/R2 だと分かります。 もし、単に直列と並列の合成抵抗の公式を覚えているだけの人がいたとすると、 公式を忘れたらおしまいでしょうか。 上記の計算から、公式は忘れても導けるようにした方がよいと主張したいのではありません。 忘れたら、何かを調べたらよいだけですし、 キルヒホッフの法則を知らないまま合成抵抗の公式を覚えた方が楽かもしれないからです。 ここまで来て、本題に入る前の2つの話とつながってきます。 人は、経験を積んでいくと、知っているつもりになることが多くなります。 オームの法則やキルヒホッフの法則を毎回実験で確かめる人は稀です。 明日はこれらの法則が成り立っていないと疑う人は極めて少ないでしょう。 そこで、自分は何を土台にして、何を導こうとしているのかに「気付いている」こと が重要だと言いたいのです。 合成抵抗の公式を土台にして、必要な合成抵抗を求めるのもよいですし、 キルヒホッフの法則を土台にして、必要な合成抵抗を求めるのもよいです。 (後者の方が、応用が利くように思いますが。) 私の価値観は、少ない法則から多くの結論を導ける方が好みですが、 多くの公式を駆使して、短時間に結論に到達するのもよいと思います。 世の中には、簡単過ぎて理解が難しいことが多くあります。 合成抵抗の公式を自分で導いてみようとする人は少ないのかもしれません。 一度覚えた後は、正しい公式だという記憶さえあれば、忘れても大丈夫です。 でも、いざ自分で導こうとしてみると、 何を土台として、どういう論理で、どんな形にもっていけばよいのか、 混乱してしまうかもしれません。 でも答えを見ると、とても簡単と感じる人は多いと思います。 そもそも、キルヒホッフの法則は、内容が分かると簡単過ぎて、 こんなのが法則かと思ってしまうかもしれません。 でも、キルヒホッフさんは、法則として確立し、 何度実験しても、これまで反証されていない、重要な法則です。 オームの法則も、誰もが知っている常識だと思うかもしれませんが、 法則の発見者として名前が残っているオームさんは偉大です。 知らなければ、自分で発見するのは、非常に困難なはずです。 -- 高野智暢 ☆TomoScope専門サイトはこちら☆