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2016.09.14
A-0063. X線管内の平均自由行程 — TT
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ X線管内の平均自由行程 発行:エスオーエル株式会社 https://www.sol-j.co.jp/ 連載「X線CTで高精度寸法測定!?」 2016年9月14日号 VOL.063 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、 無料にてメールマガジンを配信いたしております。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 前回は、ボイル シャルルの法則 「pv/T = 一定 」 を使ってみました。 今回は、まず理想気体の状態方程式を使ってみます。 ボイル シャルルの法則の「一定」という部分は、 物質量(モル)n と気体定数 R の積に書き直すことができます。 そうしてできた式を「理想気体の状態方程式」と呼んでいます。 理想気体の状態方程式は、 pv = nRT と書くことができて、 それぞれの記号の単位は、 p [Pa] v [L] n [mol] R [Pa・L・mol^-1・K^-1] T [K] となります。 さて、この式をX線管内の気体分子に適用してみます。 方程式を変形して、 n [mol] = (pv)/(RT) としておきます。 X線を出すときの圧力は、10^-6 mbar なので、 10^-6 mbar = 10^-4 Pa 温度は、27℃とすると、T = 300K となり、 体積は、v = 1L としておきます。 Rは、定数なので、R = 8.314 × 10^3 で、p, v, R, T を代入すると、 n = 4.0 × 10^-11 [mol] になります。 アボガドロ数 6.22 × 10^23 を掛けると、1L に含まれている気体分子の個数は、 2.4 × 10^13 個 になります。 X線管内は、高真空に引いているのですが、 24000000000000 個もの分子がまだ残っていることになります。 何だかとっても多い感じがしますが、 1気圧(= 10^5 Pa)の数を計算してみると、 2.4 × 10^22 個 なので、 1000000000 分の 1 になっていることが分かります。 分子の数が多すぎて、イメージしにくいので、 平均自由行程 λ を計算してみます。 平均自由行程は、 λ = 1/((√2) μσ ) という式で計算できます。 (導出は、いずれ機会があればご紹介します。) μは、数密度で 1m^3 に何個という量(単位は、[m^-3])、 σは、散乱の有効断面積 [m^2] です。 窒素N2 の直径は 3.7 × 10^-10 m なので、 σ = 4×(1.85 × 10^-10)^2 × π = 4.3 × 10^-19 m^2 となり、 μ = 2.4 × 10^13 個/1L = 2.4 × 10^16 [m^-3] なので、 λ = 68 m です。 つまり、X線を出すレベルの高真空であれば、 気体分子は 68 m 進まなければ、衝突しないことになります。 これを、1気圧の場合と比較してみます。 1気圧では、気体分子は 0.068μm 進むと衝突してしまいます。 高真空に引いたX線管内が如何にスカスカかイメージしやすくなったでしょうか。 この高真空は、分子ターボポンプというもので引いています。 中に金属の羽根が内蔵されており、1分間に90000回転という高速で回っています。 この高速回転の羽根で分子を外に弾き出しているのです。 1気圧では、分子が羽根に多く衝突するため、まだ高速回転はできません。 しかし、真空度が上がってくるにつれて、 分子が羽根に衝突する確率もかなり減ってくるので、回転数が上げられます。 直接目で見ることはできない現象ですが、 計算してみると、X線管内の様子をイメージすることができるようになります。 -- 高野智暢 ☆TomoScope専門サイトはこちら☆