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2017.02.08
A-0067. ニュートンの冷却式 — TT
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ニュートンの冷却式 発行:エスオーエル株式会社 https://www.sol-j.co.jp/ 連載「X線CTで高精度寸法測定!?」 2017年2月8日号 VOL.067 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、 無料にてメールマガジンを配信いたしております。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 測定機を扱っていると、熱(温度)の問題によく遭遇します。 そのときに役に立つのが、ニュートンの冷却式です。 今回は、冷却の式を導出してみます。 ある固体が空気(や液体)で冷やされていくときの 温度の変化を式にしてみようということです。 周りの空気の温度を T0 として、 時間 t における固体の温度を T とします。 空気と固体の温度差が大きいと、 急速に冷えていき、 温度差が小さくなると、 冷え方が緩やかになることを思い出して、 式にしてみます。 このようなときは、微分方程式になります。 dT/dt = (T0 - T)α こんな感じです。 比例定数をαとして、温度差が大きいときに 急速に冷える様子を表してみました。 では、これを解いてみます。 T0 - T を一つの変数に置き換えて、 τ = T0 - T とします。 微分方程式の T を消して、τで書き直すために、 dτ = -dT となることを使うと、微分方程式は、 -dτ/dt = τα になります。 常套手段として、左辺をτ、右辺を t にまとめると、 -dτ/τ = αdt と書けます。 この両辺を積分してみます。 -∫dτ/τ = α∫dt すると、積分を実行することができて、 -log|τ| = αt + C になります。 ここで、C は不定積分に出てくる積分定数です。 両辺を指数関数の上に乗せると、 τ = exp(-αt - C) と書けます。 ここまで来れば、τを元の T0 - T に戻すことができて、 T0 - T = exp(-αt - C) のように書けます。 それでは、積分定数を決めるために、 境界条件を考えます。 まず、時間が十分に長く経過したときは、 固体の温度が空気と同じになるという条件を 式で書くと、 t→∞ のとき、T = T0 になります。 でも、この条件式は、既に指数関数の性質によって 満たされているので、ここまでの計算が上手くいっている 確認にしかなりません。 C を決める境界条件としては、固体の初期温度が適切です。 時間 0 における固体の温度を Ti とすると、 t=0 のとき、T = Ti という条件式になります。 そして、積分定数の残った微分方程式の解に t=0 を代入すると、 T0 - T = exp(-C) となるので、その時の T を Ti と置くという式を書き下すと、 T = T0 - exp(-C) = Ti となります。つまり、 exp(-C) = T0 - Ti と書けることが分かりました。 これによって、積分定数を消去すると、 T0 - T = exp(-αt)×exp(-C) = (T0 - Ti)exp(-αt) のようにすることができます。 これを T= の式に直すと、 T = T0 - (T0 - Ti)exp(-αt) とすることができました。 これが、冷却の式です。 これはすごい。頭の中で数学を駆使することで、 物理法則を導くことができた。 数学は万能で、物理法則を生み出せるのだ、 と思うのは落とし穴です。 ここまで微分方程式を使って、式を導くと、 満足感から、数学の魅力で目が曇ってしまいます。 実は、ここまでの導出は多くの仮説によって 支えられているに過ぎません。 実際、比例定数をαとまとめてしまいましたが、 固体の表面積にも比例するという仮定を含めると、 もう少し式を詳しくすることができます。 そして何より、比例定数をαとおけば、 微分方程式で表現できるということ自体が 経験から来る仮説です。 結局、ある意味答えを知っていたから展開できた導出 だったということになります。 このように出てきた式は、実験によって仮説を検証しなくては、 意味を成しません。 幸い、この冷却式は、多くの人によって検証されているようなので、 比較的安心して使えます。 「比較的」と書いたのは、この式がどんな場合でも厳密に成り立つ法則 ではなく、多くの場合に使用して支障のない近似式だからです。 では、このように数学を駆使して、現象を式で表すのは、 意味のないことかというと、そうではなく、 多くの人が意味のある考え方であることに賛同してくれる と思っています。 利点を挙げるとたくさんあると思いますが、 このように考えると、見通しが良くなり、 応用が利いたり、より基本的な法則にたどり着いたりできます。 丁度、応用方向と基礎方向の両方向に進むための 一つの足場になっているような感じです。 -- 高野智暢 ☆TomoScope専門サイトはこちら☆