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2017.09.13
A-0074. シンク関数を積分してみましょう — TT
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ シンク関数を積分してみましょう 発行:エスオーエル株式会社 https://www.sol-j.co.jp/ 連載「X線CTで高精度寸法測定!?」 2017年9月13日号 VOL.074 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、 無料にてメールマガジンを配信いたしております。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ シンク関数は、矩形関数のフーリエ変換なので、 電気や光学をはじめ、様々な工学や物理学の分野で登場します。 純粋に数学の対象としてもシンク関数は興味深いものです。 今回は、シンク関数を積分してみます。 まず、積分されるシンク関数は、 (sin x)/x です。 これを実数の範囲で、0~∞ まで積分します。 式で書くと ∫(sin x)/x dx です。積分範囲が 0~∞ の定積分です。 これは、実数の範囲の積分ですが、 複素数の範囲で考えることで解くことができます。 まず、sin x を指数関数に分解すると、 sin x = { exp(ix) - exp(-ix) }/(2i) ですから、 シンク関数 (sin x)/x を考えるには、 f(z) = exp(iz) /z を考えると都合が良いことが分かります。 変数を z にしたのは、複素数の範囲で動くことを忘れないためです。 シンク関数に戻るときは、z を実数(変数は x と書く)に制限して、 { f(x) + f(-x) }/(2i) = { exp(ix) /x - exp(-ix) /x }/(2i) = (sin x)/x とすれば良いのです。 さて、f(z) を積分するために、積分路を決めます。 実数の積分では、実数直線上を積分すれば良かったのですが、 複素数で積分するので、どの曲線に沿って積分するのかを 決めてあげなくてはなりません。 そのために、f(z) の特徴を確認します。 z を 0 に近づけていくと、分子は 1 ですが、 分母に z があるため、無限大に発散していきます。 そのため、z=0 は特異点です。 でもそれ以外の場所には特異点がありません。 そこで、コーシーの積分定理を使います。 特異点がない領域を囲むように一周グルっと積分すると 積分値が 0 になるという定理です。 特異点になっている原点 z=0 を上手く回避する積分路として、 複素平面の上半分に、原点を中心とする半径εの半円周(E)と 半径 R の半円周(C)を描きます。 すると、実数上の -ε から半円周 E を通り、実数上の ε に行き、 実数直線(正の部分)を通って、実数上の R に至り、半円周 C を通って、 実数上の -R に行って、そこから実数直線(負の部分)を通って、 実数上の -ε に戻るという経路が描けます。 特異点を上手く避けていますので、積分値は、 ∫f(z)dz = 0 となります。 これを積分路ごとに分割して書くと、 (時計回りで半円周 E)+(ε~ R)+(反時計回りで半円周 C)+(-R ~ε)= 0 になっています。 ここで、実数上の経路が丁度、 (ε~ R)+(-R ~ε)= 2i ∫(sin x)/x dx のようにシンク関数の積分になっていることが分かります。 従って、 (時計回りで半円周 E)+(反時計回りで半円周 C) = -2i ∫(sin x)/x dx とできるので、半円周 E と 半円周 C での積分値が求まれば、 シンク関数の積分が分かることになります。 半円周 E の計算のために、f(z) をローラン展開します。 f(z) = 1/z + P(z) と展開することができます。 ただし、z のベキ級数の部分は P(z) とまとめてあります。 半円周 E で積分すると、|P(z)|< M としたときに、 |∫P(z)dz|< M|∫dz| = M|∫εdθ| = Mεπ と計算できるので、 ε→0 で、|∫P(z)dz|→0 となり、無視できることが分かります。 一方の 1/z の積分は、z = εexp(iθ) で変数変換しておくと、 dz = iεexp(iθ) dθ なので、 ∫(1/z)dz = i∫dθ = -iπ と計算できることが分かります。 ここまでで、半円周 E の部分は ε→0 で、 ∫f(z)dz = -iπ だと分かりました。 次に、半円周 C での積分です。 z = R exp(iθ) = R(cosθ + i sinθ) と変数変換すると、 dz = iR exp(iθ) dθ ですから、 ∫f(z)dz = i∫exp(-R sinθ + iR cosθ)dθ と計算できます。 左辺の積分は半円周 C に沿ってですが、 右辺の積分は 0~π の範囲です。 これも絶対値を計算してみると、 |∫f(z)dz| ≦ ∫exp(-R sinθ)dθ です。 右辺の積分範囲は、0~π ですが、 0~π/2 の範囲で積分することで、値が丁度半分になるため、 |∫f(z)dz| ≦ 2∫exp(-R sinθ)dθ と書き直すことができます。 すると、0~π/2 の範囲で 連続でかつ常に正となる sinθ/θ の最小値を m と置くことで、 m ≦ sinθ/θ ですから、mθ ≦ sinθ を使って、sinθを置き換えると、 |∫f(z)dz| ≦ 2∫exp(-Rmθ)dθ となります。 右辺の積分範囲は、0~π/2 ですが、 不等号を変えないで、0~∞ の範囲にすることができます。 ∫exp(-Rmθ)dθ = {1/(-Rm)}×{exp(-Rm×∞) - exp(-Rm×0)} = 1/(Rm) のように計算できますので、 半円周 C の部分は R→0 で、 ∫f(z)dz = 0 だと分かりました。 これでようやく、 -iπ + 0 = -2i ∫(sin x)/x dx であることが分かりましたので、 ∫(sin x)/x dx = π/2 と計算することができました。 留数定理を知っていれば、 特異点の周りで一周積分すると、留数だけが残るため、 複素関数の積分がひどく簡単になります。 シンク関数の積分の場合、 特異点の周りを一周するわけではないので、 留数定理を直接には使えません。 でも、上記のように一度計算を確認しておくと、 留数の半分の値になっていることに気付きます。 つまり、原点を半周だけしているので、 留数を半分だけ拾ってくると覚えておけば、 済むようになります。 -- 高野智暢