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2018.06.13
A-0082. 金属によるアーチファクトの原因 — TT
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 金属によるアーチファクトの原因 発行:エスオーエル株式会社 https://www.sol-j.co.jp/ 連載「X線CTで高精度寸法測定!?」 2018年6月13日号 VOL.082 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、 無料にてメールマガジンを配信いたしております。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ X線CTで金属をスキャンすると、 アーチファクトと呼ばれる現象が目立ちます。 アーチファクトとは、本来の形状ではないものが 計算の結果として再現されてしまう現象です。 金属によるアーチファクトの原因を知り、対策しようとした場合、 X線と金属の物理現象の理解と、 X線透過画像を三次元に再構成するコンピュータアルゴリズムの理解の 両方が必要になります。 どちらにしても、数学を自在に使いこなせると見通しが良くなります。 それでは、金属のアーチファクトを理解するための 最初歩の計算をやってみます。 まず、微分方程式: dI/dx = -μI を考えます。 この方程式は、以前のメルマガで紹介しました。 A.017. X線の吸収と方程式 そして、方程式を解くと、 I = I0 exp(-μx) になります。 x は X線が透過する厚み、μは吸収係数で、 I0 は X線の初期強度です。 I と書いたものは、X線強度ですが、x の関数になっていて、 I(x) と書けます。 そして、x=0 のときの I(0) が I0 という値になります。 さて、X線CT装置が現実世界から コンピュータに取り込むことのできる情報は、 p = -ln(I/I0) という量になります。 この p は、方程式の解から得られる式: I/I0 = exp(-μx) の両辺で自然対数を取り、両辺に (-1) を掛けた式の 左辺に当たります。 右辺はというと、 (右辺) = -ln{ exp(-μx) } = μx になります。 もし、どんな場合でも p = μx となれば、話は簡単で、 現実世界から取り込んだ p という情報が直接、 透過距離 x に変換できることになります。 しかし、実際には、I という関数は、 I = ∫I0(E) exp{-μ(E)x} dE となっているのです。 どうしてかというと、最初に与えた微分方程式は、 X線が単波長のときの式であり、 実際の I を求めるには、全ての波長について 足し上げる必要があるためです。 波長は連続的に値を取り得るので、 足し算が積分になっているという構造です。 このとき、現実世界から取り込める量の p は、 p = -ln { (∫I0(E) exp{-μ(E)x} dE)/(∫I0(E) dE) } と書けます。 つまり、これが連続波長のときの p の式になります。 では、連続波長のときの p の式から、 単波長の場合の右辺を計算してみます。 I0(E) として、E = ε のときだけに値を持ち、 E ≠ ε では I0(E) = 0 となる状況を考えます。 (右辺) = -ln { (∫I0(E) δ(E-ε) exp{-μ(E)x} dE)/(∫I0(E) δ(E-ε) dE) } = -ln { (I0(ε) exp{-μ(ε)x}) / I0(ε) } = -ln ( exp{-μ(ε)x} ) = μ(ε) x この計算より、 単波長であれば、p = μ(ε) x となることが分かります。 次に、μ(E) が定数で、μ(E) = μ という値のとき、 右辺の計算を進めてみましょう。 (右辺) = -ln { (∫I0(E) exp{-μx} dE)/(∫I0(E) dE) } = -ln { exp{-μx} (∫I0(E) dE)/(∫I0(E) dE) } = -ln{ exp(-μx) } = μx となります。 つまり、μが一定のときも、 p は、μ を比例定数として、透過距離 x に比例した値となります。 一方、X線が連続波長で、 μ(E) が定数ではなく、E について一般の関数となっているとき、 p = μx とはなりません。 そして、p≠μx では、 p から x を求めることが困難になります。 これが、X線CTで金属をスキャンした状況になっています。 もし、「X線CT装置の原理はどれも同じ」、 「ハードウェアが剛性高く、高精度に作ってあれば、アーチファクトが減る」 という考えで装置の評価を進めてしまうと、 重要なことを見過ごしていることになります。 X線CT装置を選定するに当たっては、 アーチファクトについて、十分留意する必要があります。 ところで、数学を使うと、見通しが良くなると言いました。 でも、ここまで読んでみると、簡単なことを小難しく複雑に 書いているようにも見えます。 でもそれは、人が書いた数式を見ているからです。 数式を書いた人は、既に頭の中に概念があって、 それを式で表現しようとした結果、こうなっているのです。 自分の中で数学的に概念を組み立てることができれば、 人が書いた数式をかいつまんだだけで、 つまり面倒な文章を読み飛ばしても、 相手が言っていることを理解することができるようになります。 ただ、ここまでそれっぽく書いてはいますが、 結局はメルマガの文章量を水増ししているだけとも言えます。 水増しされた情報の中から、何かポイントを掴んで頂けると幸いです。 -- 高野智暢