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2018.12.26
A-0089. インピーダンス整合と計算の工夫 — T.T
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ インピーダンス整合と計算の工夫 発行:エスオーエル株式会社 https://www.sol-j.co.jp/ 連載「X線CTで高精度寸法測定!?」 2018年12月26日号 VOL.089 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、 無料にてメールマガジンを配信いたしております。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ インピーダンス整合の話をしようと思いますが、 本題は、相加平均と相乗平均の話です。 電圧 E ボルトの電源と r オームの固定抵抗と R オームの可変抵抗が直列で接続された 電気回路を考えます。 計算したいことは、 抵抗 R での消費電力 P が最大となる R の値を求めよ というものです。 回路を流れる電流を I とすると、 抵抗 R の両端の電圧 V は、 V = RI なので、消費電力 P は、 P = VI = RI^2 です。ここで I は、 I = E / (R + r) ですから、 P = RE^2 / (R + r)^2 となります。 では、P が最大となる条件は何かという問題には、 どのように答えたら良いでしょうか。 もし、この回路を知っていて、 インピーダンス整合の問題だと分かれば、 実用上は、覚えている答えを使うのでも良いと思います。 実際、答えは覚えやすい形です。 でも、答えを覚えるだけでは応用できないですし、 理解も深まりません。 そこで、この回路を勉強するときは、 式を解きます。 式を解くには、方針を立てなくてはなりません。 最大値を求める問題なので、 P を微分することを思い付くかもしれません。 是非まずは、微分して dP/dR を計算してみて下さい。 微分の計算で、分母と分子に変数 R がいるので、 面倒くさいと思います。 でも、単に一回の微分が面倒なだけではありません。 この問題は、極値を求めるのではなく、 最大値を求める問題です。 つまり、dP/dR = 0 で極値が求まったら、 それが最大値であることを確かめなくてはなりません。 これは結構面倒です。 この問題において、dP/dR = 0 が最大値を与えると 覚えていて使うのは、答えを覚えているのと同じ と言われても文句は言えないかもしれません。 では、方針を変えます。 a>0, b>0 という数があって、ab = k(一定)になっているとき、 a+b が最小となる条件を求めます。 なぜこのような問題に置き換えるのかというと、 P = E^2 / (R + 2r + r^2/R) ですから、a = R, b = r^2/R と置いて考えるのです。 このとき、ab = r^2 で一定です。 P の分母の (R + 2r + r^2/R) の中の 2r も定数ですから、 R + r^2/R が最小のときに、P が最大となることが分かります。 つまり、a+b が最小となる条件を求めることになります。 さてここで、相加平均と相乗平均を使います。 a>0, b>0 であれば、a+b>0, √(ab)>0 です。 (a+b)^2 - (2√(ab))^2 を計算すると、 非負であることが分かります。 実際やってみると、 (a+b)^2 - (2√(ab))^2 = a^2 -2ab + b^2 = (a-b)^2 ≧0 です。つまり、a+b>0, √(ab)>0 なので、移項して平方根を取って、 a+b ≧ 2√(ab) が示されたことになります。 a+b は常に 2√(ab) = 2√k(一定)よりも大きいか等しいので、 a+b が最小となるのは、等号成立条件である (a-b)^2 = 0 のとき、 すなわち、a = b のときです。 ここで、一つの定理が証明されました。 a>0, b>0 という数があって、ab = k(一定)になっているとき、 a+b が最小となる条件は、a = b のときです。 元の問題に戻ると、R = r^2/R のとき、つまり、 R = r が P を最大とする条件になります。 いつもメルマガを書いているときは、 何か(ひねくれた)オチを考えています。 さて、この問題を効率よく解く工夫は何でしょうか? ・インピーダンス整合の問題の答えを覚えること ・微分の計算を早く正確に解く練習をすること ・a>0, b>0, ab=k(一定)⇒ a=b で a+b が最小という定理を覚えること ・相加平均と相乗平均を使う証明を覚えること たぶん、全部やってみて比べると良いと思います。 練習問題として、この問題を勉強する場合は、 そんなに時間を掛けないと思います。(例えば15分とか。) そして、忘れるのも早いと思います。 でも、この問題に遭遇したときにどうすべきかを考え始めると、 結構時間はあっという間に過ぎてしまいます。(数時間とか。考え過ぎ?) すると、丸暗記するよりも、何かと記憶に残ります。 この計算のやり方や工夫ではなく、 実際のインピーダンス整合を理解しようとすると、 もっと時間が必要だと思います。 (例えば、この問題とスピーカーの回路を結び付けて考えるとか。) 結局、時間を掛けて、一つのテーマについて考え続けると、 定着して忘れなくなります。 -- 高野智暢