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2019.07.17
A-0096. 感動を伝えるのが難しい話題 — T.T
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 感動を伝えるのが難しい話題 発行:エスオーエル株式会社 https://www.sol-j.co.jp/ 連載「X線CTで高精度寸法測定!?」 2019年7月17日号 VOL.096 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、 無料にてメールマガジンを配信いたしております。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 今月は、メルマガを書くのに苦労しています。 話題はいくつも思い付いたのですが、 どれもストーリー作りや計算の途中で止まってしまい、 完成させることができていません。 そこで今回は、どんな話題を書こうとして、 どんな風に止まっているのかを書くことで、 この場をしのごうという魂胆です。 ・「相似条件と合同条件」 三角形の相似条件は、仕事で頻繁に使います。 普通の人は、相似条件のことを 問題を解くための道具として見るだけかもしれませんが、 このメルマガを書いている人は、その道具そのものに なぜだか強い興味があります。 なぜだかは分かりません。興味があるものはしかたありません。 (理由を並び立てたところで、それらは後付けです。) 問題を解くために、相似条件を使うと、嬉しくなりますが、 その気持ちを多くの人と共有できないものかと、つい考えてしまいます。 相似条件を正しく使って問題が解けたときは、 数学の証明に必須のロジックが上手く機能しています。 で、それがどうした、ということを文章化しようとすると、 なんだか感じている感動とは違うものになってしまいます。 もう一つ、相似と言えば、合同もセットで出てくる概念です。 相似と合同は、似ているけど、少し違っていて、対比させて考えることで、 物事を数学的に考えるときの視点、視野というかプロセスのような 何かを感じます。 この後、どんなストーリーを書きたいかというと、 → 同型と準同型の話(たぶん、以前に書いたけど、書き尽くせていない。) → 微分幾何学、位相幾何学の話 → クラインのエルランゲンプログラムの話 (変換群とか不変量に着目して、幾何学とはどんな学問かを明確にした話) 全体像を知っている人は、何が言いたいのか分かると思いますし、 数学好きの人ならよく知っていて、たくさん文献もあるので、 今さら書くことも無いように思えますが、 伝えたいのは、そのような話のどこに感動したかということです。 伝わるかどうか分かりませんが、端的に言うと、 何を同じと見て、何を違うと見るかによって、出来上がる世界が違ってくる ということです。 数学は、決めたルールに従って、徹底的に物事を細分化して、分類します。 でも、いろいろな分類をしていくにつれて、 実は裏でつながっている様子が見えてきます。 ・「互いに素」 一つ目の項目(相似と合同)を書いているうちに、 息切れしてしまいました。 aとbが互いに素とは、aとbの最大公約数が1ということです。 そして、aとbが互いに素のとき、 ax+by=1 を満たす整数 x,y が存在することが証明できます。 整数 x,y が存在すると言っているだけですが、 この式は、(ある分野では)非常によく使います。 これを知らないだけで、丸々一冊の本が読めないということが あると言っても過言ではありません。 まるで、sinθ=θを知らないだけで、光学の本が丸々一冊読めない という事例に似ています。 何かと何かが似ているということに気づくと、つい反応してしまいます。 ただ似ているだけ、とも言えますが、 強引に似ているから何だということを推し進めていくと 何かが見えてくるときがあります。 ・「偏微分方程式の分類」 以前にもお話しましたが、うちの仕事は微分方程式まみれです。 全く違う現象を見ているようでも、 同じ微分方程式を扱っているだけということがよくあります。 そこで、微分方程式も話題に事欠きません。が、 どこにでも書いてある情報や数式を書いても面白くないものです。 でも、少なくとも自分が面白いと思えるストーリーに仕上げるのが、 結構大変です。 ここまでで、分類とか似ているものとかそんな話の流れで来ました。 偏微分方程式にも分類があります。 楕円型、双曲型、放物型 というものです。 かなり前に円錐曲線について書いたことがあります。 これも伝えたいことが書き尽くせていません。 たくさんの優れた本があるので、読んでみると、 「そうそう、そういうこと。この人書くの上手いなぁ~」 と、いつも思います。 自分で何か書いてみると、 「あぁ~、これでは伝わらないな」という感じです。 で、楕円、双曲線、放物線 というのは、 円錐曲線というものに分類されます。 円錐の切り口で、全て作れるのです。 偏微分方程式は、その円錐曲線の仲間たちの名前で 分類されています。 だから何?という文章を書こうと思って、止まっています。 ・「射影空間」 ついでに、射影空間は、以前から書く機会を狙っていて、 まだ書けていないネタです。 円錐曲線の話が出たついでに、えいやっと 書いてしまうと、 楕円、双曲線、放物線 が円錐の切り口 という考え方で統一されてしまうのは、感動的ですが、 射影空間に行くと、 楕円も(円も)、双曲線も、放物線も そもそも同じものになってしまいます。 何か似ているけれども違うものという見方だったのが、 同じものとして扱う見方になってしまいます。 この考え方を知っていると、レンズの結像を考えるとき、 実物体、実像、虚物体、虚像 の考え方が、統一的に見えます。 特に、虚物体はまともに考えるのが厄介なもので、理解に苦しみます。 でも、一段上の抽象的な視点で見ると、理解が容易になります。 射影空間で考えると、平行光線は、無限遠点という点で結像しています。 平行線は交わらないと考える視点を超えて、 なんか抽象的な点で交わっていると考えると、 レンズの結像公式がパラメータを動かしたときに連続的につながって見えます。 という話を上手い文章で書きたいと思いつつ、 自分の文章力の低さにもどかしさを感じています。 ・「圏、関手、自然変換」 この話の流れで行くと、圏論に行きつきます。 最初に書きたい項目を羅列して、 後から中身を書いていきましたが、たまたま 上手く話がつながりました。 否、この話が上手くつながっていると感じているのは、 この文章を書いている本人と、 断片的な話から意図を読み取ろうといてくれている心優しい寛容な人だけです。 数学で違う分野の話は、もはや違う言語を話しているかのように 別世界の話になっています。 方程式の解の性質を突き詰めている数学の分野と 図形の変形とかを扱っている数学の分野では、 全く違う話が展開されています。 しかし、別々の分野の話の「なんか似ているな」と思う部分を対応させていくと、 パズルのピースが埋まるかのように、 あっちの分野では解けていない問題が、 こっちの分野の対応する問題なら解けている ということに気づくことがあります。 じゃあ、答えは同じじゃない?という発想です。 それぞれ別の分野を一まとまりにして圏というものとして扱い、 圏と圏の対応関係を関手というものでつないでおきます。 ついでに、ある関手を別の関手に変形する操作(自然変換)も考えます。 この方法を使うと、数学は実際の中身を離れて、 構造だけを抽象化して扱うことができるようになります。 もはや、集合論のように物事を考える必要がなくなります。 集合論は、あまりにも強力なので、身に付いてしまった人が 集合論を忘れて、圏論だけで考えられるようになるには、 かなりの練習が必要だと思います。 集合論では、集合の中身(元)がどんなものかを考える必要があります。 圏論では、中身に興味はなくなります。構造だけに着目します。 もし、集合論という数学の分野を抽象的に扱いたければ、 圏論を使って議論することもできます。 普通の人にとっては、集合論も抽象的に見えると思うので、 その上を行く抽象的な圏論は、不思議な世界かもしれません。 圏論は、敬意を込めて アブストラクト ナンセンス (抽象的ナンセンス) と呼ばれることがあります。元々は敬意のこもった呼び方です。 圏論を軽視して アブストラクト ナンセンス と呼ぶ人もいます。 (どちらの言い分も分かります。) 圏論を勉強していくと、関連するたくさんの抽象的な概念が登場してきます。 でも、あるところで、それらが全て一つの概念に集約されることが分かります。 これが分かったときは、 脳内の何かの物質が全開になり、 本当に違う世界に居る気分になります。 (人から聞くのと、自分で体験するのは大きく違うので、) 是非、自分で確かめてみて下さい。 少なくとも、結構長い間、 無味乾燥な砂漠を歩いているような気分は味わえます。 -- 高野智暢