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2019.08.14

A-0097. 置換群のお話 — T.T

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置換群のお話

発行:エスオーエル株式会社
https://www.sol-j.co.jp/

連載「X線CTで高精度寸法測定!?」
2019年8月14日号 VOL.097

平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、
無料にてメールマガジンを配信いたしております。

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仕事をしていると、様々な場面で置換群に遭遇します。
つい最近も置換群と格闘しました。

置換群とは、「・・・」という性質を持つ集合です。

さて、冒頭で早速、迷いが出ています。
今回のお話を組み立てるに当たって、
どこから書き始めて、どんな流れにして、何を伝えたいのか、
とても悩ましい。。

置換群とは何か説明すること(定義)を後回しにして、
話を進めるという暴挙に出ます。


例えば、(1 2 3 4) という集合があって、
ある操作で (2 1 4 3) になったとします。
これを表現するのに、置換群の元 (1⇔2, 3⇔4) が
集合 (1 2 3 4) に作用したという具合に考えます。

ここでも迷いが出ます。
置換群の元をどのように表現すべきか?

とりあえず、元 (1⇔2, 3⇔4) と書いて、
話を進めようとしましたが、
このまま話を進めることができるでしょうか?

 どんな話にするかによって、
 細かい定義が必要なこともあれば、
 読み手の解釈で何通りかの意味の違いがあっても
 本筋に影響がないこともあります。

 元 (1⇔2, 3⇔4) と書いた場合、
 集合 (2 3 4 1) はどのように作用を受けるでしょうか?

 数字の 1~4 を入れ替える操作だと思うと、
 作用の結果は、(1 4 3 2) です。

 集合の 1~4番目の数字を入れ替える操作だと思うと、
 作用の結果は、(3 2 1 4) です。

 この混乱は、定義を明確にすることで解決します。
 今回は、どちらの定義でも話の本筋には関係ありませんが、
 混乱が生じること自体が話の本筋に関係します。


今、集合 (1 2 3 4) とこれを入れ替える操作(群)を分けて考えました。
しかし、置換群もある性質を満たす集合と考えることができますので、
操作を受ける集合と操作を集めた集合が出てきて、混乱します。

しかも、この混乱は単なる混乱ではなく、
上手く対応付けをしてあげれば、同一視することができます。

操作 (1⇔2, 3⇔4) のことを (2 1 4 3) と書いてしまえば、
(2 1 4 3) は操作を受ける集合なのか、操作自体のことなのか
区別できなくなってしまいます。

注意が必要なのは、抽象化したものを具体的なものに対応させるときです。
抽象化による同一視をするときは、同型写像という対応規則に従って、
それ以上その2つのものを区別して扱う必要がないことを確認します。
でも、具体的なものに戻すときに、対応関係を間違えると、
誤った理解になることがあります。


 ここまで、置換群を話題にするために、文章にまとめ切れませんでしたが、
 とても沢山の事柄について考えを巡らせました。

 置換群というのは、抽象数学の中では簡単な部類に入ります。
 実際、日常で出会う置換群は、簡単すぎて、群論的に考えるまでもありません。
 あるいは逆で、群論的に考えると複雑過ぎるので、
 簡単に考えられる範囲しか見ないようにしているだけかもしれません。

 簡単なことの本質を抽象化して使いこなすのは簡単ではありません。

 そして、置換群に関連して、
 対称群との違いは何か(対称群の部分群が置換群ですが、話が膨らみます)、
 互換と巡回群について(これらも油断すると記法で混乱します)など、
 話題は尽きません。

 定義についても、
 集合SからS自身への全単射のなす群を置換群と言いますが、
 定義を暗記しても役に立ちません。


それでは、最近格闘した置換群の話をします。

装置の配線です。
装置にはコネクタがあり、配線同士をつないでいます。

このとき、10+10+12+12 で合計 44本の配線が問題になりました。

部品交換する際に、
それぞれ 8箇所で配線が入れ替わる可能性のある
接続があるとします。

  A → B → C → D → E → F → G → H

このように、A~Hを経由している間に、
44本の配線が入れ替わっているかもしれない状況です。

各部品からのケーブル44本(A)は、ユニットのコネクタ(B)でまとまり、
コネクタ(C)から装置内ケーブルを通り、コネクタ(D)から出て、
コネクタ(E)から装置外ケーブルを通り、コネクタ(F)から出て、
コントローラのコネクタ(G)から内部ボード端子(H)に入る
という感じです。

最終的に A と H が正しい配線でつながっていれば、
正常に動作しますが、諸事情により、B-G間で何本かが何回かスワップしています。

断線や接触不良を含む可能性のあるトラブルシュートにおいて、
どのような方針でトラブルに対応するか考えることは重要です。

44本の入れ替わり全ての場合を考えるのは膨大です。

10+10+12+12 の内部で入れ替わっている組み合わせを考えるだけでも
9億6千5百万通り以上を考えなくてはなりません。

実際には、異常動作の現象を見て、
可能性のある状況を考えて、考える必要のない組み合わせは除外します。

ケーブルの導通を確認する際に、2人がかりで B-G 間のつながりを
記録していったとします。
問題個所を特定するために、記録を取りながら追い込んでいきます。

ある時点で、お互いの記録に記法の違いがあることに気が付きました。
正しい配線図の記録を作成するために、
置換群でお互いの記録をすり合わせる必要がありました。
(このときは結局、置換群での読み替えはせずに、記録の取り直しをしました。)

紆余曲折の末、
問題個所の特定と修復が完了しました。

特に置換群を使う必要のない仕事でしたが、
配線のルートを考えたり、記録のすり合わせをしたりと
背景には置換群が潜んでいる仕事です。


変な実例を書いてしまいましたが、
何かと何かを対応させるという作業は、
日常的に行うものです。

そのときに、群論的な視点があると、
組み合わせの数や操作の見積り、効率的な道筋などを検討することができます。


--
高野智暢

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