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2019.10.09

A-0099. 距離という概念の抽象化 — T.T

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距離という概念の抽象化

発行:エスオーエル株式会社
https://www.sol-j.co.jp/

連載「X線CTで高精度寸法測定!?」
2019年10月9日号 VOL.099

平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、
無料にてメールマガジンを配信いたしております。

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今回は、距離という概念について、お話したいと思います。

いつも仕事で扱っている装置は、
座標測定機(三次元測定機)や干渉計です。
これらは全て、距離を測定するための道具です。

距離というのは、2つの点を持ってきたときに、
それに対応して、1つの実数値が決まるものです。

普段、「長い、短い」とか「近い、遠い」という概念を
当たり前のように使っているので、
改めて距離について考えようとすると、先入観や固定観念のせいで、
「距離」という概念の本質がなかなか見えてきません。

簡単に思えるものを単純な要素に分解して、
本質を抜き出して、抽象化することは、結構難しいものです。

現代では、人類の過去の蓄積があるために、
答えを知ってから考え始めることができます。
そこで、何人もの天才が取り組んで、現在まとめられている
「距離」とは何かの抽象的な定義をみていきます。


定義では、4つの条件を満たす関数 d から距離が決まるということを
言っています。

まず、2点を用意する必要があるので、それを x, y と書きます。
定義するときに、3点目を用意して、
それとの関係も述べる必要があるので、それを z と書きます。

x, y, z は、距離が定義される集合から選ばれた 3点です。


1) d(x,y) ≧ 0
  :距離は負の値を取らないということです。

2) d(x,y) = 0 ⇔ x = y
  :距離が0ならxとyは同じ点、そしてxとyが同じ点なら距離が0です。

3) d(x,y) = d(y,x)
  :xとyを入れ替えても距離は同じです。

4) d(x,y) + d(y,z) ≧ d(x,z)
  :三角不等式と呼ばれます。
   xからzへ行くのに、yという経由点を通ると距離は同じか遠回りです。


実際の距離を測ったり、
具体的な距離について考えたりするだけでも、
多くの知識が必要ですし、労力を要します。

そして、本質を抜き出したと言われる、抽象化された距離の定義を見ると、
何の役に立つのか一見分からないものになっています。
当たり前のことを書いただけのようにも見えます。

でも、抽象化のご利益は、
高い視点から、広く遠くまで見渡せるようになることにあります。


座標測定機で測定される距離は、
3次元空間の2点 x=(x1,x2,x3) と y=(y1,y2,y3) に対して、

  d(x,y) = √( (x1 - y1)^2 + (x2 - y2)^2 + (x3 - y3)^2 )

で決まる距離になります。

この時の d という関数について、
上記の4つの条件を満たしていることを確かめることができます。


抽象化された距離という道具を手に入れると、
いろいろなものに近いとか遠いという関係を与えることが
できるようになります。

今回は本当は、「n進法とp進数」というお話を書くつもりでした。
次回に書くことができればよいなぁと思っていますが、
p進数を定義するには、距離の抽象化を理解しておく必要があります。

また、フーリエ変換の理論を裏で支えているのも抽象化された距離です。

距離の定義に沿うような、上手い距離を持ってくることで、
新たな視点でものごとを捉えることができるようになります。

毎度のことながら、この先につながる広い世界を
なかなか上手く伝えることができずに、もどかしく思いますが、

ひとまず、p進数というものについて書きたかったのだということと、
この先、ノルム、位相空間、多様体、無限次元空間、
さらには、量子力学、相対性理論、ゲージ理論につながる
基礎の基礎としての距離の抽象化について触れることができたので、
本日の目的は達成ということにしておきます。


--
高野智暢

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