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2019.12.11
A-0101. コーシー・シュワルツの不等式を使った計算 — T.T
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ コーシー・シュワルツの不等式を使った計算 発行:エスオーエル株式会社 https://www.sol-j.co.jp/ 連載「X線CTで高精度寸法測定!?」 2019年12月11日号 VOL.101 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、 無料にてメールマガジンを配信いたしております。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 数学の本を読んでいると 「明らか」とか「簡単に示せる」と書いてあることがありますが、 実際にやってみると、簡単ではないことがあります。 先々月のメルマガで、 3次元空間の2点 x=(x1,x2,x3) と y=(y1,y2,y3) に対して、 d(x,y) = √{ (x1 - y1)^2 + (x2 - y2)^2 + (x3 - y3)^2 } で決まる d という関数について、 抽象的な距離の条件を満たしていることを確かめられる と書きました。 最初の3つは簡単に確かめられます。 4つ目の三角不等式も簡単かなと思いきや、 実際にやってみると面倒な計算です。 自分で「確かめられる」と書いたからには、 一応やっておかないと思い、計算を始めると、 予想以上に時間が掛かってしまいました。 示したい三角不等式は、 d(x,y) + d(y,z) ≧ d(x,z) です。 実際に書き下して、計算した結果を載せます。 d(x,y) = √{ (x1 - y1)^2 + (x2 - y2)^2 + (x3 - y3)^2 } d(y,z) = √{ (y1 - z1)^2 + (y2 - z2)^2 + (y3 - z3)^2 } d(x,z) = √{ (x1 - z1)^2 + (x2 - z2)^2 + (x3 - z3)^2 } 三角不等式の両辺を二乗します。 {d(x,y) + d(y,z)}^2 = (x1 - y1)^2 + (x2 - y2)^2 + (x3 - y3)^2 + (y1 - z1)^2 + (y2 - z2)^2 + (y3 - z3)^2 + 2√{ (x1 - y1)^2 + (x2 - y2)^2 + (x3 - y3)^2 }√{ (y1 - z1)^2 + (y2 - z2)^2 + (y3 - z3)^2 } = (x1)^2 + (y1)^2 + (x2)^2 + (y2)^2 + (x3)^2 + (y3)^2 + (y1)^2 + (z1)^2 + (y2)^2 + (z2)^2 + (y3)^2 + (z3)^2 -2(x1y1) -2(x2y2) -2(x3y3) -2(y1z1) -2(y2z2) -2(y3z3) + 2√{ (x1 - y1)^2 + (x2 - y2)^2 + (x3 - y3)^2 }√{ (y1 - z1)^2 + (y2 - z2)^2 + (y3 - z3)^2 } {d(x,z)}^2 = (x1 - z1)^2 + (x2 - z2)^2 + (x3 - z3)^2 = (x1)^2 + (z1)^2 + (x2)^2 + (z2)^2 + (x3)^2 + (z3)^2 -2(x1z1) -2(x2z2) -2(x3z3) 両辺を比べて、同じ項を消去すると、 左辺 = 2(y1)^2 + 2(y2)^2 + 2(y3)^2 -2(x1y1) -2(x2y2) -2(x3y3) -2(y1z1) -2(y2z2) -2(y3z3) + 2√{ (x1 - y1)^2 + (x2 - y2)^2 + (x3 - y3)^2 }√{ (y1 - z1)^2 + (y2 - z2)^2 + (y3 - z3)^2 } 右辺 = -2(x1z1) -2(x2z2) -2(x3z3) さらに両辺を 2 で割ると、 左辺 = (y1)^2 + (y2)^2 + (y3)^2 -(x1y1) -(x2y2) -(x3y3) -(y1z1) -(y2z2) -(y3z3) + √{ (x1 - y1)^2 + (x2 - y2)^2 + (x3 - y3)^2 }√{ (y1 - z1)^2 + (y2 - z2)^2 + (y3 - z3)^2 } 右辺 = -(x1z1) -(x2z2) -(x3z3) ここで、左辺 ≧ 右辺 を改めて書くと、 (y1)^2 + (y2)^2 + (y3)^2 -(x1y1) -(x2y2) -(x3y3) -(y1z1) -(y2z2) -(y3z3) + √{ (x1 - y1)^2 + (x2 - y2)^2 + (x3 - y3)^2 }√{ (y1 - z1)^2 + (y2 - z2)^2 + (y3 - z3)^2 } ≧ -(x1z1) -(x2z2) -(x3z3) ルートのある項を左辺に置いて、残りの項を右辺に移項すると、 √{ (x1 - y1)^2 + (x2 - y2)^2 + (x3 - y3)^2 }√{ (y1 - z1)^2 + (y2 - z2)^2 + (y3 - z3)^2 } ≧ -(x1z1) -(x2z2) -(x3z3) - (y1)^2 - (y2)^2 - (y3)^2 +(x1y1) +(x2y2) +(x3y3) +(y1z1) +(y2z2) +(y3z3) ここで、右辺を次のようにまとめることができます。 -(x1z1) -(x2z2) -(x3z3) - (y1)^2 - (y2)^2 - (y3)^2 +(x1y1) +(x2y2) +(x3y3) +(y1z1) +(y2z2) +(y3z3) = (x1 - y1)(y1 - z1) + (x2 - y2)(y2 - z2) + (x3 - y3)(y3 - z3) つまり、 √{ (x1 - y1)^2 + (x2 - y2)^2 + (x3 - y3)^2 }√{ (y1 - z1)^2 + (y2 - z2)^2 + (y3 - z3)^2 } ≧ (x1 - y1)(y1 - z1) + (x2 - y2)(y2 - z2) + (x3 - y3)(y3 - z3) この両辺を二乗すると、 { (x1 - y1)^2 + (x2 - y2)^2 + (x3 - y3)^2 }{ (y1 - z1)^2 + (y2 - z2)^2 + (y3 - z3)^2 } ≧ {(x1 - y1)(y1 - z1) + (x2 - y2)(y2 - z2) + (x3 - y3)(y3 - z3)}^2 これは、まさにコーシー・シュワルツの不等式で、 成立することが証明できるので、 d(x,y) + d(y,z) ≧ d(x,z) が証明できたことになります。 変数を置き直したり、対称性を考慮したりして、 もう少しスマートに計算することもできそうですが、 このように愚直に機械的な計算をしてみるのも良いものです。 今回も無駄に長くなってしまったので、 コーシー・シュワルツの不等式の証明は、またの機会にします。 -- 高野智暢