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2020.03.11
A-0106. 幾何光学と暗黙知や書き順について — T.T
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 幾何光学と暗黙知や書き順について 発行:エスオーエル株式会社 https://www.sol-j.co.jp/ 連載「X線CTで高精度寸法測定!?」 2020年3月11日号 VOL.106 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、 無料にてメールマガジンを配信いたしております。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「学問に王道なし」と言いますが、これは、 ギリシャの数学者ユークリッドが王様に 「もっと簡単に幾何学を学ぶ方法はないの?」と言われたときに、 「幾何学に王道なし」と答えたという話から来ているそうです。 物事を理解するには、どんな人であっても 等しく経なければならない過程があるということですが、 その通りだなぁとよく思います。 今でも、ハイデガーやサルトルやカントといったような 難解と言われている哲学書を時間を掛けて読むことがあります。 結局、何度も読んだデカルトの本に立ち返ることになり、 何度読んでも得ることがあるなぁと感じます。 本に書いてあることは変化していないのですが、 読む自分が変化しているのです。 速読で1日に数十冊本を読むことは可能です。 自分も毎日大量の文章に目を通しますので、 速読という技術の熟練度は別にして、もっと読書量は増やせます。 でも、単に読む本を増やせば良いというものではなく、 何年掛かっても読む価値のある噛み応えのある本に取り組むのは 楽しいし、価値があると信じています。 数学の本にもそのような特徴があります。 読んだり、考えたりした数学のうち、実務で使うのは、1%もないですが、 残りの99%以上は無駄ではなく、定義を確認し、公理から論理的に進めていく やり方は、まさに実務に活きています。 さて、何かを学ぶときには、その分野の「暗黙知」があります。 幾何光学をやるには、微分とテーラー展開が常識として染み付いていないと 一定の理解度を得るのは難しいのではと思っています。 ルールと知識を覚えて、ある程度機械的に問題は解けるようになるとは思いますが、 sinθ=θ が理解できなければ、表面的な理解です。 sinθ=θ が本を読み進められるレベルに理解できたとしても、 応用時に、高次項の扱いを踏み外すと、実務上の問題は解けません。 幾何光学の作図にも暗黙知があります。 理解してしまった人は、なかなか自分の使っている暗黙知を認識することができません。 その人にとっては当たり前なので、理解できない人に教えることも難しくなります。 作図のルールは簡単です。 空気中に薄いレンズを置いたときは、 1) 光軸に平行な光線は屈折後に焦点を通ります。 2) 物側焦点を通る光線は屈折後に平行に出ていきます。 3) レンズの中心を通る光線は屈折しません。 このうちの2つを使えば作図できます。 さて、幾何光学の本を漫然と読むと、このような基礎も頭に残らない事態が生じます。 速読すれば、読み飛ばしてしまいます。 時間を掛けて読めば、全体を理解する前に前提条件を忘れます。(脳の特性です。) このルールを覚えても、「薄いレンズ」という言葉が専門用語で、 定義を理解しておく必要があるということを知らなければ、 日常的に使う「薄い」という言葉で、何か分かった気になってしまいます。 屈折はレンズの表面で起こっているはずですが、 この場合、レンズの中心を通り、光軸に垂直な面で屈折した図を描く必要があります。 この意味も、順を追って、理解する人が辿るべき道を通った人でなければ、 分からなくなります。 そして、図を描くときの書き順がとても重要です。 書き順を見れば、その人の理解度や伝えたい内容が分かります。 機械の図面を描く時も基準から描きます。 見よう見まねで本に描いてある絵を覚えただけの人は、 理解に苦しむ書き順になることがあります。 「王道なし」の意味は、時間を掛ければよいという意味ではありません。 でも、時間が掛かります。 何かを理解するために掛かる時間に関しても、暗黙知があります。 -- 高野智暢