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2020.05.20
A-0107. テーラーの定理を証明する前にロルの定理に触れる話 — T.T
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ テーラーの定理を証明する前にロルの定理に触れる話 発行:エスオーエル株式会社 https://www.sol-j.co.jp/ 連載「X線CTで高精度寸法測定!?」 2020年5月20日号 VOL.107 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、 無料にてメールマガジンを配信いたしております。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 理工系の何らかの専門書や論文を読むとき、 避けて通れない基礎というものがあります。 微分は、そのような基礎の中でも頻出の概念です。 微分の計算自体は簡単です。 ルールを覚えて当てはめて解くというのは、 計算スキル向上の良い練習であり、 またそのように手順化できるのが数学の利点です。 でも、計算練習だけでは、概念の理解や 応用力の向上は難しいと思います。 何に公式を当てはめて、何を解くのか ということが重要になってきます。 さて、微分を自分のスキルとして使いこなすには、 テーラー展開くらいは簡単に使える必要があるかな と思います。 与えられた関数をテーラー展開するのは簡単です。 ルールに当てはめると計算は簡単です。 何なら、公式集から拾ってくるだけでも良いです。 でも、専門書が冒頭でテーラー展開を前提として 書き始めてあるのに、それに気づけないと、 本一冊読んでみて、何も理解できていないという ことが起こり得ます。 テーラー展開の理解には、たくさん応用してみて、 感覚を掴むのも良いと思いますが、 やはり、テーラーの定理の証明を理解するのが 大切だと思います。 そうすると、微分の理解の前提にある「収束」 という概念を理解しているかの確認にもつながるし、 証明のロジックを理解することは、 ロジカルな頭の使い方の訓練にもなります。 ではさっそく証明を始めましょう と言いたいところですが、 数学は、定義や公理からスタートして、定理を証明し、 次の定理の証明に証明済みの定理を使っていく という積み上げで広がっていきます。 テーラーの定理の証明の前に必要な道具を 揃えておく必要があるのです。 テーラーの定理の証明は何通りかあります。 平均値の定理を使うか、ロルの定理を使うか、 積分を使うか等の選択肢があります。 ここでは、ロルの定理を使ってみましょう。 その前にロルの定理を証明しておこうと思うと、 最小値最大値の定理を証明しておく必要があります。 さらには、最小値最大値の定理を証明しようとすると、 別の定理(ワイエルシュトラスの定理とか単調収束定理とか)を 知っておく必要があります。 結局、実数の公理系を理解している必要が出てきます。 実数の体系はなかなか面倒くさいですが面白いです。 ある定理の証明に別の定理を使い、その定理はさらに別の定理で 証明されていて、回り回って、最後の定理を証明するのに 最初の定理を使うという、蛇が自分の尻尾をくわえているような 輪になっています。 仕方がないので、最初に使う定理を公理と呼んで、 その体系の前提とするのです。 (最終的に矛盾のない体系になっていることで納得するしかないのです。) キリがないので、ロルの定理は認めておきましょう。 厳密な話は専門書を読めばよいので、細かい前提も省きます。 ロルの定理は、 微分可能な連続関数 f(x) があって、f(a) = f(b) を満たすときに、a と b の間のどこかの点 c (つまり a < c < b)で、f’(c) = 0 となる。 というものです。 ちょっと考えると当たり前のことを言っているのですが、 数学の面倒くさいところは、当たり前では済まされず、 ロジックに穴がないことを(誰からもツッコまれないように) 示す必要があります。 ここで証明を書くのは退屈なので、 紙にXY平面を描いて、適当に2点 a と b をいろいろ打ってみて、 その間を滑らかな曲線でつないでみます。 すると、どんな点の打ち方をしても、どんな結び方をしても、 a と b の間のどこかで、接線がX軸に平行になるものが 必ず存在していることが分かります。 (これがちょっと考えると当たり前という意味です。) では、次回はロルの定理を使って、 テーラーの定理を証明してみようと思います。 -- 高野智暢