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2020.06.10

A-0108. テーラーの定理を証明する話 — T.T

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テーラーの定理を証明する話

発行:エスオーエル株式会社
https://www.sol-j.co.jp/

連載「X線CTで高精度寸法測定!?」
2020年6月10日号 VOL.108

平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、
無料にてメールマガジンを配信いたしております。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



前回、テーラーの定理を証明しようとして、
ロルの定理が出てきたところで、話が中断しました。

ロルの定理は、
  微分可能な連続関数 f(x) があって、f(a) = f(b)
  を満たすときに、a と b の間のどこかの点 c
  (つまり a < c < b)で、f’(c) = 0 となる。
というものです。

ロル定理は証明せずに使います。
そんな姿勢でいいのか!という反論があるかもしれませんが、
それでもいいのです。

ロルの定理の証明は簡単です。
(正しくは、比較的簡単な証明が知られているというべきか。)
一度はやってみた方がよいと思いますが、
やろうと思えばできるという感覚があればよいかなとも思います。
(そのためには、一度はやってみる必要があります。)

いやむしろ、ロルの定理は証明しなくてもよいのです。
(微積分や実数に関する)全てをロルの定理を前提として証明できれば、
ロルの定理は証明すべき定理ではなく、むしろ公理になります。

そんなことができるのかという問いには、
やったことはないけどできるらしいよ
としか言えません。

やってみようとも思いません。
先人がやった結果をまとめた専門書が手元にあれば、
必要になったら確認するというスタンスでよいかなと思います。

何でも自分でやって確認したい性格ですが、
残念ながら寿命は有限なので。

何を公理に置くと、どんな定理が証明できて、
どんな体系が無矛盾に構築できるかという構造を理解していることが
重要だと思います。(なかなか容易ではなく、時間と根気が必要です。)


では、テーラーの定理を証明します。

まず、閉区間 [a,b] を用意しておきます。
そこに、n回微分可能な関数 f(x) を持ってきます。

次に、ロルの定理を使うために、関数 g(x) を作ります。

  g(x) = f(x) + (b-x)f’(x) + {(b-x)^2 / 2!}f^(2) (x)
      +...+ {(b-x)^{n-1} / (n-1)!}f^(n-1) (x) + A(b-x)^n

ここで A は、ロルの定理を使うために用意した定数です。

x に a と b を代入したときに、g(a) = g(b) になるように、
定数 A を選ぶことができます。

すると、g’(c) = 0 となる a < c < b があることが、
ロルの定理から言えます。

つまり、g(x) を微分してみると、

  g’(x) = f’(x) - f’(x) + (b-x)f^(2) (x)
       - {2(b-x) / 2!}f^(2) (x)
       +...+ {(b-x)^{n-1} / (n-1)!}f^(n) (x) - nA(b-x)^{n-1}

となって、ほとんどの項が打ち消しあって、
最後の 2項だけが残ることで、

  g’(x) = {(b-x)^{n-1} / (n-1)!}f^(n) (x) - nA(b-x)^{n-1}

になるので、g’(x) の x に c を代入して、
両辺を (b-c)^{n-1} で割ることで、

  {1/(n-1)!} f^(n) (c) - nA = 0

が成り立つことが言えます。
つまり、A = {1 / n!} f^(n) (c) です。


一方で、g(a) = g(b) ですが、g(b) = f(b) でもあります。
それは、g(x) の中のほとんどの項が (b-x) を持っていて、
x に b を代入すると、そのような項は全て 0 となり、
f(b) だけが残るからです。

従って、g(a) = f(b) なので、これを具体的に書き下してみると、

  f(a) + (b-a)f’(a) + {(b-a)^2 / 2!}f^(2) (a)
    +...+ {(b-a)^{n-1} / (n-1)!}f^(n-1) (a) + A(b-a)^n = f(b)

になります。
定数 A の項は、

  A(b-a)^n = {(b-a)^n / n!} f^(n) (c)

です。


ここまで確かめたことを整理して書くことで、
テーラーの定理を明文化することができます。

明文化されたものは、確かめたことを整理しただけなので、
証明されていることになります。

  本来は、命題として文章を与えて、
  それが正しいことを証明するのが普通ですが、同じことです。

では、テーラーの定理をちゃんと書いてみます。


テーラーの定理:

  閉区間 [a,b] 上の n回微分可能な関数 f(x) について、

    f(b) = f(a) + (b-a)f’(a) + {(b-a)^2 / 2!}f^(2) (a)
        +...+ {(b-a)^{n-1} / (n-1)!}f^(n-1) (a) + R_n

  と書いたとき、

    R_n = {(b-a)^n / n!} f^(n) (c)

  となる c が a < c < b に存在する。


たぶん、テーラーの定理を証明できたとしても、
テーラー展開を実際に使うには、別の理解が必要になると思います。

でも、テーラー展開をよく理解して、自在に応用できるようになるには、
テーラーの定理を一度はちゃんと証明しておいた方がよいと思います。


--
高野智暢

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