メールマガジン・新着情報一覧
- TOP
- メールマガジン・新着情報一覧
- A-0109. 実数の連続性 — T.T
2020.06.24
A-0109. 実数の連続性 — T.T
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 実数の連続性 発行:エスオーエル株式会社 https://www.sol-j.co.jp/ 連載「X線CTで高精度寸法測定!?」 2020年6月24日号 VOL.109 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、 無料にてメールマガジンを配信いたしております。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 座標測定機やX線CT、干渉計といったシステムを理解し、 応用するには、それなりの技術的なベースが必要になります。 装置自体は、用途が決まっていて、運用が軌道に乗ってしまうと、 特に難しいことも考えずに、安定して容易に扱うことができます。 しかし、新たな課題に直面すると、解決のために、 技術的なベースを駆使することになります。 機械にしても、電気にしても、光学にしても、 微分や積分は、基礎としてどうしても避けて通れない道です。 そこから、直交多項式やフーリエ変換など、 個別の専門数学を習得して、それを技術に応用して使いこなすには、 結構な勢いでステップを駆け上がる必要があります。 でも、急ぎすぎると、考え方をすっ飛ばして、 貧弱な基礎の上に切り張りのハリボテを作ることになるので、 本質的な解決に届かなかったり、そもそも楽しくなかったりします。 急いでゆっくり進むには、 細部と大局の両方を見た方が良く、そのためには、 全体像(構造、マップ)を常に意識するのが良いと思います。 微分や積分の計算は、練習すれば、習得は比較的容易です。 でも、計算や演算処理をコンピュータがやってくれる今は、 計算練習もさることながら、考え方の深い理解が重要だと思っています。 微分や積分を習得するマップは、教科書の目次がそれに当たると思いますが、 各セクションの概要(小マップ)も必要です。 微分や積分の基礎は、実数というものの構造を知ることです。 そのための実数論を延々と勉強しても、なかなか微分や積分に辿り着けません。 でも、実数の構造をある程度理解することは、 その先の専門数学を理解するのにとても役に立ちます。 とても前置きが長くなりましたが、 実数の連続性(完備性)の小マップを見てみましょう。 まず、これから扱う「実数」というものは、 これこれこういう性質を満たすものですよ、という宣言をします。 そのような宣言を公理と言いますが、最小限の前提を並べます。 その中でも実数にとって重要なのが、 (1) デデキントの切断公理 と呼ばれるものです。 実数を2つの組(下組 A と 上組 B)に分けたとき、 A に最大元があって B に最小元がないか、 Bに最小元があって A に最大元がないか のいずれかである。 というものです。 もし、A に最大元があって B に最小元がある場合は、 A と B の間に飛びがあります。 (2組に分けたつもりが、Aの最大元とBの最小元の間の数を飛ばしている。) もし、A に最大元がなくて B に最小元がない場合は、 A と B の間に途切れがあります。 ⇒ このような途切れがなく、実数が連続性を持つという主張です。 この公理から出発すると、たくさんの定理が証明できます。 主要なものでは、 (2) ワイエルシュトラスの上限または下限の存在定理 (3) 有界な単調数列の収束定理 (4) 区間縮小法の原理 といった定理です。 面白いのは、これらの定理の関係性です。 (1) を公理にして、(2) → (3) → (4) の順に証明済みの定理を使って、 次の定理を証明することができますが、 最後は、(4) を使って、(1) を証明することができます。つまり、 (1) → (2) → (3) → (4) → (1) のように輪になっています。 従って、どれを公理として出発しても、 残りを定理として証明することができます。 同様に、(1) ~ (4) と同値なものがたくさんあります。 前回使った ロルの定理 もその一つです。 トップダウンで下ってきたつもりが、 いつの間にか元の場所に戻っているというのは、 エッシャーのだまし絵(ペンローズの階段)を見ているようです。 数学の証明をただ延々となぞっても面白くないことが多いですが、 このような構造が見えた時、面白いなぁと思います。 -- 高野智暢