メールマガジン・新着情報一覧
- TOP
- メールマガジン・新着情報一覧
- A-0114. コンプトン散乱の式の導出 — T.T
2020.10.21
A-0114. コンプトン散乱の式の導出 — T.T
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ コンプトン散乱の式の導出 発行:エスオーエル株式会社 https://www.sol-j.co.jp/ 連載「X線CTで高精度寸法測定!?」 2020年10月21日号 VOL.114 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、 無料にてメールマガジンを配信いたしております。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 今回は、X線CTにも関係がある コンプトン(Compton)散乱について書きます。 この話題は何度も書こうと思いましたが、 どこから始めて、どこまで書くかの選択肢が多く、 どんなオチにするかも悩ましいので、 なかなか書くことができませんでした。 そこで、あれこれ捻ったことを考えず、 まず式の導出計算を紹介することにしました。 状況設定として、 静止した電子にX線光子を衝突させることを考えます。 電子の静止質量を m とし、 入射X線光子の波長を λ とします。 (光速度は c です。) 衝突後、反跳電子のエネルギーが E となり、 反跳電子の運動量は p になったとします。 散乱X線の波長は λ’になったとします。 入射X線の進行方向を基準線として、 (反時計回りに)散乱X線の散乱角度を θ とし、 (時計回りに)反跳電子の進行方向の角度を φ とします。 コンプトン散乱の式を導くには、 まず運動量保存則とエネルギー保存則を書き下します。 運動量保存則は、 x 方向: (h/λ) = (h/λ’) cosθ + p cosφ y 方向: 0 = (h/λ’) sinθ + p sinφ エネルギー保存則は、(特殊相対性理論を考慮して) (hc/λ) + mc^2 = (hc/λ’) + E となります。 次に、φを消去したいので、 運動量保存則の2式をそれぞれ二乗します。 {(h/λ) - (h/λ’) cosθ}^2 = p^2 cos^2φ (h/λ’)^2 sin^2θ = p^2 sin^2φ この2式を足して、sin^2φ + cos^2φ = 1 を使うと、 (1/λ)^2 + (1/λ’)^2 - 2 cosθ/(λλ’) = (p/h)^2 を得ます。これを(式A)とします。 続いて、エネルギー保存則を二乗して、 (1/λ)^2 + (1/λ’)^2 - 2/(λλ’) = (E^2 - 2Emc^2 + m^2c^4)/(hc)^2 を得ます。これを(式A)と比較すると、最初の2項が共通で、 第3項も上手く括れるので、これら2式を引き算すると、 2(1 - cosθ)/(λλ’) = (p^2c^2 - E^2 + 2Emc^2 - m^2c^4)/(hc)^2 となります。 ここで、特殊相対性理論におけるエネルギーと運動量と質量の関係式が E^2 - p^2c^2 = m^2c^4 なので、 2(1 - cosθ)/(λλ’) = 2(Emc^2 - m^2c^4)/(hc)^2 というところまで計算を進められます。 そして、もう一度、エネルギー保存則を思い出して、変形すると、 E - mc^2 = (hc/λ) - (hc/λ’) なので、さらに計算を進められて、 (1 - cosθ)/(λλ’) = (mc^2){(hc/λ) - (hc/λ’)}/(hc)^2 となります。これを整理すると、 λ’-λ = {h/(mc)}(1 - cosθ) が得られます。 これがコンプトン散乱の式です。 この式についてコメントしようとすると、長くなりそうなので、 今回はここまでにします。 -- 高野智暢