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2023.06.28
A-0147. 指数関数のテーラー級数表示を得ようとする話 — T.T
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 指数関数のテーラー級数表示を得ようとする話 発行:エスオーエル株式会社 https://www.sol-j.co.jp/ 連載「知って得する干渉計測定技術!」 2023年6月28日号 VOL.147 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 X線CTによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、 無料にてメールマガジンを配信いたしております。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 一般の人でも高度なAIに触れることができるようになった時代ですが、 AIが何でもやってくれるようになったとしても、 人間がやることに意味があることは多く残ります。 自動車の方が速くても、人間は陸上競技を続けています。 チェスや将棋や囲碁も、AIに勝てなくなっても人間はやり続けます。 特に、プロ棋士は仕事がなくなるどころか、 AI時代になって更に活気が出ているように感じます。 AIがプログラミングをやってくれたとしても、 プログラミングが好きな人は、好きなのでやり続けます。 自分も最近、C#のコードを書きながら、AIがやってくれたとしても、 この達成感はAIにやらせたら味わえないのでやり続けたいと思いました。 数学も、好きな人は自分でやりたいものです。 (ガウスは、単純計算も自分でやりたかったそうです。) 特に、数学は、答えを得ること自体よりも、 考える能力を鍛えるという側面があるため、 数学的思考ができる人の方がAIを使いこなせるようになります。 今回は、指数関数について書こうと思いましたが、 指数関数に関連する話題は多く、切り口も無数にあるため、 どんなお話にするか迷うところです。 (どんな文章を書く時でもそうですが、) まず、スタート地点をどこに置き、ゴール(オチ)はどうするかを考えます。 その次に、どのようなルートを通るかを大まかに決めます。 書いているうちに、横道に逸れたり、最初から書き直したりすることも ありますが、最終的に、スタートとゴールが明確で、納得のいくルート になっているかどうかを確認します。 数学の場合、スタートに「定義」と「公理」を置きます。 厳密にやりすぎると、読む人が面白味を感じなくなるので、 上手く(?)調整します。 今回は、指数関数のスタート地点として、 e = lim_{n→∞} ( 1 + 1/n )^n という定数を置きます。この e という量が、 ある数に収束して、定数になることは、証明が必要ですが、 今は割愛(惜しいと思うものを省略)します。 n は自然数で、1から順に増やすことができ、 lim_{n→∞} は、n を無限大まで飛ばした極限を取るという意味です。 例として、いくつか計算してみます: n= 1 ⇒ (1+1/n)^n = (1+1) = 2 n= 2 ⇒ (1+1/n)^n = (1+1/2)^2 = (3/2)^2 = 2.25 n= 4 ⇒ (1+1/n)^n = (1+1/4)^4 = (5/4)^4 = 2.44140625 n=10 ⇒ (1+1/n)^n = (1+1/10)^10 = (1.1)^10 = 2.5937424601 n=100 ⇒ (1+1/n)^n = 2.704813829... n=1000 ⇒ (1+1/n)^n = 2.716923932... n=10000 ⇒ (1+1/n)^n = 2.718145927... n=100000 ⇒ (1+1/n)^n = 2.718268237... n=1000000 ⇒ (1+1/n)^n = 2.718280469... 最終的に、n→∞ では、(1+1/n)^n = 2.718281828459045..... という無理数(そして 有理係数代数方程式の解にならないので 超越数) になります。この数を e と書きます。 出発点を (1+1/n)^n の極限値にしたので、 それ以外の性質は、定理として証明すべきものになります。 ある性質を証明する際に、証明していない性質を使うことはできません。 (でも全部証明していると前に進まないので、上手い歩幅調整が必要です。) また、証明に使った性質を証明するために、今証明した性質を使うと、 循環論法になるので、それを避ける練習としてもやる価値があります。 今回の記事は、指数関数のテーラー級数表示に辿り着きたいと思っています。 そのためには、(テーラー展開の定理は使えるとして、) 指数関数の微分の性質を確かめなくてはなりません。 そのためのステップとして、 lim_{x→0} ( 1 + x )^(1/x) = e の証明が必要です。 本来は、はさみうちの原理でちゃんと証明するべきですが、 書き切れないので、話の流れを止めない程度の簡略で話を進めます。 もう単純に、x = 1/n と置いて、x→0 のとき n→∞ と考えてしまいます。 すると、定義から、 lim_{x→0} ( 1 + x )^(1/x) = lim_{n→∞} ( 1 + 1/n )^n = e です。 続いて、両辺の対数を取ることで、 lim_{x→0} (1/x) log( 1 + x ) = 1 が得られます。 (暗黙に、証明できるけど、今は証明していない性質を使っています。) さらに、h = log( 1 + x ) と置くことで、e^h = 1 + x なので、 lim_{h→0} h/(e^h - 1) = 1 ですが、後から使いやすいように、逆数を取って、 lim_{h→0} (e^h - 1)/h = 1 という式を得ます。 ここまで来て、ようやく e^x の微分ができます。 微分の定義より、 (d/dx) e^x = lim_{h→0} (e^(x+h) - e^x)/h = (e^x) lim_{h→0} (e^h - 1)/h = e^x なので、e^x の微分は e^x のように変わらないということが分かります。 e^x の微分ができて、テーラー展開の定理が使えるならば、 e^x = Σ (x^n)/(n!) という指数関数のテーラー級数表示が得られます。 (Σ は、n=0 ~ ∞ の和とします。) 和を明らかに書くと、 e^x = 1 + x + (x^2)/2 + (x^3)/(3!) + (x^4)/(4!) + ... です。 さて、話の流れとしては悪くない感じがしますが、 定数 e の実数 x 乗 という定義していないものを使ってしまいました。 このギャップを埋めるには、新たな関数 exp(x) = lim_{n→∞} ( 1 + x/n )^n を定義して、これが、 exp(a + b) = exp(a) exp(b) を満たすことを示し、 べき乗の e^(a+b) = (e^a)(e^b) から対応関係を元に、 定数 e の実数 x 乗 という拡張をするのが良さそうですが、 今回のこの流れで仕上げるのは諦めます。 最初から、exp(x) = lim_{n→∞} ( 1 + x/n )^n を出発点にして、 exp(1) = lim_{n→∞} ( 1 + 1/n )^n = e で進めれいればもう少し良かったのかもしれませんが、 今日はもう書き直す元気がありません。 こういうロジックは、ジグソーパズルのように 全てのピースが矛盾なく嵌ったときに、大きな喜びを感じられます。 公式を使えるようになることや、人の組み立てたロジックを辿ることとは違い、 自分で組み立てた時のこの喜びを感じられるからこそ、数学はやめられません。 (そして、その過程では、いくつも穴が見つかり、何度もやり直します。) ちなみに、この記事を書くのにAIは使っていません。 書きたいことは自分で書きたいものです。 (最近は、ここまでAIに書かせましたが、気付きましたか的なオチも増えているようです。) -- 高野智暢