メールマガジン・新着情報一覧
- TOP
- メールマガジン・新着情報一覧
- A-0154. 相空間における調和振動子— T.T
2024.02.21
A-0154. 相空間における調和振動子— T.T
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 相空間における調和振動子 発行:エスオーエル株式会社 https://www.sol-j.co.jp/ 連載「X線CTで高精度寸法測定!?」 2024年2月21日号 VOL.154 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 X線CTによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、 無料にてメールマガジンを配信いたしております。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 前回(A-0153. 相空間のお話)の続きです。 相空間(phase space)は、 「座標と運動量を独立変数にした空間で、力学的な状態を決定できる」 という話でした。 変数が満たすべき ハミルトン方程式 は、 dx/dt = ∂H/∂p と dp/dt = -∂H/∂x です。(時間を t、座標を x、運動量を p と書いています。) ハミルトニアン H は簡単に言うと、全エネルギーのことです。 つまり、運動エネルギー T と ポテンシャルエネルギー V に対して、 H = T + V です。 (前回の記事の中身は、実質これだけです。) 今回は、 調和振動子(物体とバネと壁をつないだときの振動現象) の例を相空間で考えるという内容です。 バネ定数を k とすると、ハミルトニアン H は、 H = (p^2)/(2m) + (kx^2)/2 です。 運動方程式の目的は、ある時点の x と p を知ることで、 その先の未来(あるいはそれまでの過去)を予言することです。 エネルギー保存則より、H は一定の値 E を取り続ける(H = E)ので、 (p^2)/(2m) + (kx^2)/2 = E となり、式変形によって、 (x^2)/(2E/k) + (p^2)/(2mE) = 1 になります。 これは、楕円の方程式 (x^2)/(a^2) + (p^2)/(b^2) = 1 に他ならないので、 相空間として、横軸 x、縦軸 p としたときの状態点 (x, p) の (-√(2E/k), 0) : 座標xは負の最大振幅位置、速度はゼロ (0, √(2mE)) : 座標xは釣り合いの位置、速度は正方向最大 (√(2E/k), 0) : 座標xは正の最大振幅位置、速度はゼロ (0, -√(2mE)) : 座標xは釣り合いの位置、速度は負方向最大 を通る楕円によって、運動が決定されることが分かります。 運動方程式を解くまでもなく、欲しい情報が手に入りました。 与えられたエネルギー E によって、 相空間上の同じ軌跡をずっと周り続けます。 (異なるエネルギーの軌跡は交わることがありません。) ここで今回の話を終えてもよいのですが、 せっかくなので、ハミルトン方程式を解いてみます。 dx/dt = ∂H/∂p = p/m dp/dt = -∂H/∂x = -kx つまり、xをtで微分すると、pに係数(1/m)を掛けたものになり、 pをtで微分すると、xに係数(-k)を掛けたものになるという 連立方程式を解けばよいのです。 これは、まさに三角関数の sin と cos の関係なので、 x = A sin( √(k/m) t + α) であれば、 p = m(dx/dt) = A √(km) cos( √(k/m) t + α) で、方程式を満たしていることが分かります。 このときの A は、最大振幅を与えておけばよいので、 A = √(2E/k) となり、αは振動開始の条件を与えておけばよいです。 つまり、t=0 で、 x = √(2E/k) sin(α) p = √(2mE) cos(α) です。 簡単な例では、 ニュートン力学でもラグランジュ力学でもハミルトン力学でも 同じ答えになるので、抽象度が低めのニュートン力学で十分ですが、 粒子の数が多くなったり、ちょっと複雑なシステムを考えるだけで、 ニュートン力学では手に負えなくなってしまうので、 ラグランジュ力学やハミルトン力学が強力な道具になります。 -- 高野智暢