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2024.02.21

A-0154. 相空間における調和振動子— T.T

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相空間における調和振動子

発行:エスオーエル株式会社
https://www.sol-j.co.jp/

連載「X線CTで高精度寸法測定!?」
2024年2月21日号 VOL.154

平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
X線CTによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、
無料にてメールマガジンを配信いたしております。

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前回(A-0153. 相空間のお話)の続きです。


相空間(phase space)は、
「座標と運動量を独立変数にした空間で、力学的な状態を決定できる」
という話でした。

変数が満たすべき ハミルトン方程式 は、

  dx/dt = ∂H/∂p  と  dp/dt = -∂H/∂x

です。(時間を t、座標を x、運動量を p と書いています。)


ハミルトニアン H は簡単に言うと、全エネルギーのことです。
つまり、運動エネルギー T と ポテンシャルエネルギー V に対して、

  H = T + V

です。
(前回の記事の中身は、実質これだけです。)


今回は、
調和振動子(物体とバネと壁をつないだときの振動現象)
の例を相空間で考えるという内容です。


バネ定数を k とすると、ハミルトニアン H は、

  H = (p^2)/(2m) + (kx^2)/2

です。

運動方程式の目的は、ある時点の x と p を知ることで、
その先の未来(あるいはそれまでの過去)を予言することです。

エネルギー保存則より、H は一定の値 E を取り続ける(H = E)ので、

  (p^2)/(2m) + (kx^2)/2 = E

となり、式変形によって、

  (x^2)/(2E/k) + (p^2)/(2mE) = 1

になります。
これは、楕円の方程式

  (x^2)/(a^2) + (p^2)/(b^2) = 1

に他ならないので、
相空間として、横軸 x、縦軸 p としたときの状態点 (x, p) の

  (-√(2E/k), 0) : 座標xは負の最大振幅位置、速度はゼロ
  (0, √(2mE))   : 座標xは釣り合いの位置、速度は正方向最大
  (√(2E/k), 0)  : 座標xは正の最大振幅位置、速度はゼロ
  (0, -√(2mE))  : 座標xは釣り合いの位置、速度は負方向最大

を通る楕円によって、運動が決定されることが分かります。
運動方程式を解くまでもなく、欲しい情報が手に入りました。

与えられたエネルギー E によって、
相空間上の同じ軌跡をずっと周り続けます。
(異なるエネルギーの軌跡は交わることがありません。)


ここで今回の話を終えてもよいのですが、
せっかくなので、ハミルトン方程式を解いてみます。

  dx/dt = ∂H/∂p = p/m
  dp/dt = -∂H/∂x = -kx

つまり、xをtで微分すると、pに係数(1/m)を掛けたものになり、
pをtで微分すると、xに係数(-k)を掛けたものになるという
連立方程式を解けばよいのです。

これは、まさに三角関数の sin と cos の関係なので、

  x = A sin( √(k/m) t + α)

であれば、

  p = m(dx/dt) = A √(km) cos( √(k/m) t + α)

で、方程式を満たしていることが分かります。
このときの A は、最大振幅を与えておけばよいので、

   A = √(2E/k)

となり、αは振動開始の条件を与えておけばよいです。
つまり、t=0 で、

  x = √(2E/k) sin(α)
  p = √(2mE)  cos(α)

です。


簡単な例では、
ニュートン力学でもラグランジュ力学でもハミルトン力学でも
同じ答えになるので、抽象度が低めのニュートン力学で十分ですが、

粒子の数が多くなったり、ちょっと複雑なシステムを考えるだけで、
ニュートン力学では手に負えなくなってしまうので、

ラグランジュ力学やハミルトン力学が強力な道具になります。


--
高野智暢

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