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2020.04.29

D-0159. 不確かさにおけるゲインとオフセットの校正の影響 — T.T

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不確かさにおけるゲインとオフセットの校正の影響
 
発行:エスオーエル株式会社
https://www.sol-j.co.jp/
 
連載「知って得する干渉計測定技術!」
2020年4月29日号 VOL.159
 
平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
干渉計による精密測定やアプリケーション例などをテーマに、
無料にてメールマガジンとして配信いたします。
 
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
 
 
UltraFlat の精度保証は、「不確かさ」(Uncertainty)に基づいています。

不確かさの考え方は、測定不可能な「真の値」を前提とした
旧来の誤差論の問題点を解決するために、
ISOを中心とした国際機関が1993年に発刊(1995年に改訂)した
GUM(計測における不確かさの表現のガイド)にまとめられており、
現在に至るまで、世界的に標準的な測定の基礎となっております。


不確かさは、測定結果の値に付随する量であり、
装置の精度を直接特徴付ける量ではありません。

つまり、UltraFlat の導入時や点検時に測定して計算された不確かさは、
その状態の装置で基板の平面度を測定したときに、
測定値が含み得るばらつきを表すものです。

そして、Corning Tropel社の UltraFlat は、
その不確かさによって、測定値の信頼性が保証されています。


UltraFlat における不確かさは、通常、特に超高平坦になる程、
Reference Flat の寄与がそのほとんどを占めることになります。

そして、UltraFlat は、Reference Flat の精度に応じて、
不確かさのスペックを定めています。


今回は、不確かさにおけるゲインとオフセットの校正の影響が
どのように計算されるのかを見ていこうと思います。

関連する記事として、以下の 2つがあります:

  平面度測定機UltraFlatのUncertainty計算解説 ↓
    D-0012. 平面度測定機UltraFlatのUncertainty計算解説

  誤差の伝搬 ↓
    A-0020. 誤差の伝搬


さて、説明のために、一旦従来の誤差の考え方に立ち返り、
校正されるべき系統誤差について考えます。

それは、ゲインとオフセットに分解され、
ゲインはキャリブレーションデバイスで校正されて、
ベリフィケーションデバイスによって確認されます。

また、オフセットは Reference Flat によって校正されます。

この状況を考察し、不確かさに換算するために、
これらの校正を数式で表します。

平面度の測定結果を Y とし、本来の平面度を X とします。
すると、ゲイン α とオフセット β について、

  Y = αX + β

という式が立ちます。

これを α=1 及び β=0 にする(つまり、Y=X に合わせ込む)ことが
校正の目的となります。


ここで、誤差の伝搬則を考える必要があります。

ゲイン α を 1 に校正したいのですが、
校正時の測定誤差 Δα が必ず生じます。

Δα の標準偏差を ε と書き、期待値を E[ ] で表すと、

  ε = √E[(Δα)^2]

となります。
同様に、Δβ の標準偏差を γ と書くと、

  γ = √E[(Δβ)^2]

です。
それに伴って、結果として、Y にも誤差が伝搬しますので、
Y の誤差 ΔY の標準偏差を η と書くと、

  η = √E[(ΔY)^2]

です。
これらの標準偏差を使って、誤差を式で改めて書き並べると、

  α = 1 ± ε
  β = 0 ± γ
  Y  = X ± η

となります。

では、誤差 ε と γ が η にどのように伝搬するのかを計算します。

今、Y は、α と β の関数になっていますので、

  Y = f(α,β)

と書いておきます。
ここで、関数 f に α=1+Δα と β=0+Δβ を代入すると、

  Y + ΔY = f(1+Δα, 0+Δβ)

なので、f(1+Δα, 0+Δβ) をテーラー展開すると、

  f(1+Δα, 0+Δβ) = f(1,0) + (∂f/∂α)Δα + (∂f/∂β)Δβ + (2次以上の項)

となります。
このとき、f(1,0) とは Y=X のことですから、両辺の Y を消して、
2次以上の項を落とせば、

  ΔY = (∂f/∂α)Δα + (∂f/∂β)Δβ

が得られます。

そして、誤差 ΔY の二乗の期待値を計算すると、

  E[(ΔY)^2]

   = E[(∂f/∂α)^2(Δα)^2 + (∂f/∂β)^2(Δβ)^2 + 2(∂f/∂α)(∂f/∂β)ΔαΔβ]

   = (∂f/∂α)^2 E[(Δα)^2] + (∂f/∂β)^2 E[(Δβ)^2]
     + 2(∂f/∂α)(∂f/∂β) E[ΔαΔβ]

ですが、Δα と Δβ は無相関で、E[ΔαΔβ]=0 なので、
両辺の平方根を取ることで、

  η = √{ (∂f/∂α)^2 ε^2 + (∂f/∂β)^2 γ^2 }

が示せました。(これが、誤差の伝搬則です。)


誤差の伝搬則に偏微分が出てきますが、関数 f の形は分かっているため、
計算を進めることができ、

  ∂f/∂α = X
  ∂f/∂β = 1

です。

さて、不確かさの計算では、それぞれの誤差要因に対応して
「標準不確かさ」を求めて、
それらを合成することで、「合成標準不確かさ」を計算し、
最後に包含係数を掛けて、「拡張不確かさ」にします。

今、標準不確かさとして、ゲインとオフセットに着目しているので、
それらを u(gain) と u(offset) と書いておくと、

  u(gain)   = Xε = X(1-α)
  u(offset) = γ

です。
ゲイン誤差 ε については、±ε=1-α ですが、プラス側を取りました。
結局は、二乗して平方根を取るので、絶対値が意味を持ちます。

このとき、αは、校正によって 1 に合わせ込まれる量ですが、
基準原器(ベリフィケーションデバイス)によって測定されます。

つまり、認証機関である NIST が値付けした深さ D と
実際に装置で測定してみた値 V の比が 1 になって欲しいので、
それが α に対応します。( α = D/V )

これを u(gain) に代入すると、

  u(gain) = X(1-D/V) = X(V-D)/V

を得ます。
この (V-D) は、まさに Accuracy と呼ばれる量なので、
u(gain) は、測定対象の平面度 X と Accuracy に比例します。


ついでに、γ も計算すると、
(以前の記事に書いたように、一様分布の標準偏差を計算し、)
Reference Flat の保証値を a とすれば、

  u(offset) = a/√3

になります。

これで、不確かさにおけるゲインとオフセットの校正の影響が
分かったことになります。

実際の数値を入れてみると、
UltraFlat における不確かさは、測定対象が超高平坦になる程、
Reference Flat の寄与がそのほとんどを占めることが確かめられます。
また、Accuracy はほとんど寄与しなくなります。


--
高野智暢

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