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2023.05.10
D-0194. 波面収差による傾き成分の計算 — T.T
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 波面収差による傾き成分の計算 発行:エスオーエル株式会社 https://www.sol-j.co.jp/ 連載「知って得する干渉計測定技術!」 2023年5月10日号 VOL.194 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 干渉計による精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、 無料にてメールマガジンを配信いたしております。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 今回は、斜入射干渉計で、具体的な計算例をやってみます。 平面度測定に使用するフィゾー干渉計では、 ビームエキスパンダで拡大したレーザーの平面波を用います。 この平面波が波面収差を持つときに、 どんな影響が出るかを考えることは興味深いです。 波面を関数 W(x,y) で書くことにします。 斜入射の場合、参照面で波面分割した参照光とテスト光を 重ね合わせて、干渉縞を作ることになります。 参照光は、参照面で反射した波面で、 テスト光は、参照面を透過して、サンプル表面で反射した波面です。 参照光が W(x,y) のとき、 テスト光は、W(x+δ,y) の横ずれを持って、 重ね合わさることになります。 縞感度を S = 2μm/fr として、波長 λ = 0.635μm とすると、 入射角度は、 θ = arccos{ λ/(2S) } なので、θ = 80.86565 [deg] です。 参照面とサンプル表面のギャップが g = 350μm であれば、 δ = 2g tanθ なので、δ = 4353.5μm と計算できます。 今、波面が平面波ではなく、球面波になっていると考えます。 非常に平面に近い球面なので、テーラー展開して、 W(x,y) = h^2 /(2r) + h^4 /(8r^3) + ... ですが、最初の項のみを使います。 ここで、r は球面の曲率半径、距離 h は h^2 = x^2 + y^2 です。 参照光とテスト光を重ね合わせたときの光路長差 OPD は、 OPD = W(x,y) - W(x+δ,y) なので、 OPD = { x^2 - (x+δ)^2 } /(2r) = -{ 2δx + δ^2 } /(2r) と計算できます。 すると、x について一次の項によって、 傾き成分が現れることが分かります。 干渉計で傾き成分の縞が出てきたときは、 サンプルのチルト調整や最小二乗平面による基準の取り直しで、 (平面度測定においては)取り除くことができます。 しかし、厚みムラ測定など、基準を取り直せない場合、 傾き成分は、測定に影響を与えてしまいます。 ギャップを g から g+t に変化させてみます。 例えば、t = 350μm として、ギャップを倍の 700μm にします。 そのとき、傾きが 50mm 当たり 0.1μm 変化した場合の 球面波の曲率半径を求めてみます。 δ’= 2(g+t) tanθ = 8707.1μm なので、 -2(δ - δ’)x /(2r) = 0.1 を解くことになります。 x = 50mm = 50000μm と δ と δ’を代入して、r を求めると、 r = 2.2 km という結果になります。 2インチのウェーハで、この傾き 0.1μm が許容できない場合、 平面波を曲率半径 2.2km 以上となるように追い込む必要がある ということですが、 2.2km のコンパスで描いた円の一部の円弧を想像してみると、 円弧はもはや直線で、その凄さをイメージできるのは、 想像もできないくらい大きなコンパスだなということくらいです。 -- 高野智暢