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2021.09.22
E-0113. 真空の排気式の導出 — E.C
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 真空の排気式の導出 発行:エスオーエル株式会社 https://www.sol-j.co.jp/ 連載「測定の新常識!?SOLがお伝えするノウハウ!」 2021年9月22日号 VOL.113 平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。 X線CTスキャンによる精密測定やアプリケーション開発情報などをテーマに、 無料にてメールマガジンを配信いたしております。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 皆さん、こんにちは。 営業技術の張です。 今回は真空技術についてお話します。 X線CT装置の殆どは熱電子を加速し、 ターゲットに衝突させ、X線を発生させています。 熱電子の加速には真空環境が必要です。 完全な真空は理想状態であり、現実には存在しません。 世の中使われている真空は希薄気体だと考えても良いです。 真空は圧力により 低真空(10^5 ~ 10^2 Pa)、 中真空(10^2 ~ 10^-1 Pa)、 高真空(10^-1 ~ 10^-5 Pa)、 超高真空(10^-5 Pa 以下) に分類されています。 TomoScope では真空圧が約(10^-3 ~ 10^-4 Pa)の 高真空が使われています。 高真空環境を作る為には、 真空ポンプを使って排気する必要があります。 そのプロセスは、水の入った風呂桶を空にする為に、 バケツで汲んで、外に捨てる作業に似ています。 違うのは、水は重力で風呂桶の下に集まりますが、 空気は常に容器中に満たされています。 容器に満たされた気体分子は、運動状態により、 粘性流、中間流、分子流 に分類されています。 ポンプの排気過程としては、まず粘性流領域、 次に中間流領域、最後は分子流領域で行われます。 ここでは、水の扱いと同様な粘性流において 計算式を導きます。 排気の過程を考えるために、例えば体積 V の容器に 気体分子が密度 n で満たされた状態を考えます。 ある短い時間 Δt 毎に体積 v の空箱を取付け、 そして Δt 秒後にこの箱を取り外します。 すると、満たされた気体分子数は減り、 排気されることになります。 分子数 N は nV として、 Δt 秒後の分子数の変化率を考えると、 容器に対して、体積 V が一定で、 密度のみが変化している為、 ΔN / Δt = V × Δn / Δt と書けます。 空箱に対して、体積 v が一定で、 密度は取り付ける前には 0 で、 取り付けた後は n になる為、 ΔN / Δt = v × (0-n) / Δt = -vn / Δt と書けます。 ポンプの排気スピードを S = v / Δt にすると、 V × Δn / Δt = -Sn です。 Δt を無限に小さくすると、微分の概念により、 V × dn/dt = -Sn という方程式に書くことができます。 気体分子の密度が簡単に測定できれば、 この式を解けば良いのですが、 実際には分子密度の測定が難しい為、 測定しやすい圧力で上記の式を書き直します。 気体分子運動論の基礎により、理想気体の状態方程式は p = nkT ( p:気圧、n:気体密度、k:ボルツマン定数、T:温度 ) です。 上の式を書き直すと、 V × dp/dt = -Sp になります。 そして、式を下記のように変形します。 dp/dt = -(S/V)×p この式の意味は、気圧変化の勢いが 気圧 p に比例(比例定数 S/V )することを表しています。 S/V にマイナスが付いているのは、 気圧が下がることを表します。 これを解く為に、更に式を変形します。 (1/p)×dp = -(S/V)×dt 両側同時に積分すると、 ln(p) = -(S/V)t + 定数C になります。 t = 0 の時、p = p0 だとすると、 次のような式が得られます。 p = p0 exp(-(S/V)×t) この式はよく使われていますね。 X線の減衰、液体の冷却、コンデンサ(キャパシタ)の充放電 など、全部この関数で表されます。 この式によって、排気する容器の気圧は 指数関数で減衰していることが分かります。 但し、これは粘性流のときのみを表しています。 TomoScope で使われている高真空では、 殆ど分子流領域で扱っている為、 そのまま計算することができません。 でも、高真空までの排気プロセスとして、 この式を参考に、真空引きのイメージを理解できます。 それでは、今日はこの辺で。 最後までお付き合い頂き、有難う御座いました。 -- E.C